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夏目房之介の「で?」

辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』上巻と霜月たかなか『コミックマーケット創世記』

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辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』上巻(青林工藝舎)。
辰巳が手塚らとの交流をへて、投稿マンガで賞金を得ながら、次第に長編を描くようになり、榎本法令館や東光社、日の丸文庫で単行本を描き、そしてのちに「劇画」と呼ばれる既成のマンガではない表現にとどりついてゆくまでを描いている。上巻は、まさにその現場となる日の丸文庫での「影」創刊の頃が描かれるところで下巻へ・・・・。う~~、面白い! 辰巳の主観の中で、それまでのマンガに物足らないもの、何か違う表現への移行が、同時に「生活のためのマンガ」という意識から、どういう演出で描くかなどの表現意識への移行と並行して描かれているあたり、資料的にも、「劇画」の意味したものを考える上でも貴重だし、興味深い。それらの過程をマンガで読める、というのも嬉しい。あ~早く下巻読みたい!

霜月たかなか『コミックマーケット創世記』(朝日新書)。
いやー、これもまた面白い! 全部読んでから、と思ってたけど、とりあえず紹介してしまおう。COMとぐらこんの読者組織化と、その挫折(虫プロ倒産に至る過程)がもたらした、マンガ同人誌やマンガ青年たちのネットワークと「運動」意識、そしてそれが産み落としたコミケの流れを個人史とからめて追う。僕は、今、自分を含む世代が「読者/作者共同体」としてマンガ言説や受容構造を変えていった過程をさぐりたいという思いもあって、コミックパーク連載「マンガの発見」で「ビッグコミック」「ガロ」「COM」と雑誌を読者論的にたどったりしているので、この本はもうドンピシャな証言なのだ。
霜月氏は51年生まれで、僕の一個下だから、マンガ青年としての個人史もかなり親近感があるが、僕自身はグラコンや同人誌などの集団的な動きとは無縁に生きてきた。なので、じつは現場的にはほとんど知らない。コミケの初期に会場に行った記憶はあるが、ほとんど憶えていない。ヨネやんの急逝がもたらした証言でもあり、文章にある種の緊張感があるのもいい。まだ読み始めたばかりだが、わくわくする。

この2冊は、マンガ史に興味のある人は必読であります!

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