オルタナティブ・ブログ > 夏目房之介の「で?」 >

夏目房之介の「で?」

講演会・シンポジウム 「世界に広がる日本のポップカルチャー マンガ・アニメを中心として」

»

6月2日、有楽町マリオンの朝日ホール人間文化研究機構第6回公開講演会・シンポジウム 「世界に広がる日本のポップカルチャー マンガ・アニメを中心として」開催。そこで講演「漫画・MANGA・コミック」をやる。以下、レジュメ公開。

会場では、最前列にウノ氏と矢崎屋さんが並んで座っていた。
シンポジウムの参加者、タイのチャワーリン サウェッタナンさんから「タイでマンガ家になった知り合いが、かつて夏目さんにタイでマンガを見てもらって意見をもらったそうです。もすごい人生の一大事だったようです」といわれた。思い当たる人はいるけど、うれしいね。リサーチの仕事でいって、取材しながらやったことだけど、何か、いってよかったなと思う。

人間文化研究機構第6回公開講演会・シンポジウム 「世界に広がる日本のポップカルチャー マンガ・アニメを中心として」 講演1 レジュメ  夏目房之介

「漫画・MANGA・コミック」

1)  マンガ世界化現象の現在

19世紀後半期の日本近代化→印刷技術・媒体・社会変化にともなう漫画の成立

「西欧の衝撃」によって成立した文化→戦前・戦後を通じた「日本」化

 欧米新聞漫画 複数のコマによる物語的展開、吹き出し、映画との相互影響

 19世紀末からの大衆社会化による娯楽媒体→世界化現象→日本化

図1 麻生豊「ノンキナトウサン」 

川崎市

市民ミュージアム『日本の漫画300年』‘96年7月 94p

 セリフ横書き、左→右読み(モダンなかっこよさ 縦書きとの並存 →やがて縦書きに統一 

近代大衆文化の世界越境性と地域性 平行・混在しつつ進む

戦後の高度成長・若者文化・消費社会の世界化に伴う普遍化

 日本マンガの東アジア浸透 「海賊版」時代→正規契約時代(1990年代

 同時に欧米でも日本アニメの浸透 TV多チャンネル化・廉価ソフトとして →マンガ浸透へ 90年代後半のドイツのブレイク、米国での新たな流通経路と媒体獲得

MANGAは、すでに日本産とは限らない 現地作家の登場 様式としてのMANGA

 コミック、BD、MANGA 地域化→世界化→地域化の循環

図2 PREVIEWS drawing life 2007 March 228~229p  MANGA MONTH 米国産MANGA

3 SHIRO AMANO Kingdom Hearts Tokyo Pop + Disney ディズニー・キャラと日本アニメ・マンガの絵・コマの混交

2)  漫画からマンガ、MANGAへ

漫画(マンクァク)=中国語でヘラサギ(鳥)  →雑文、様々な対象を扱う本

近世日本で「自由で適当な絵」 →『北斎漫画』 →明治前期「ジャパン・パンチ」から「ポンチ絵」 →蔑視ニュアンスからの脱却→「国宝」『鳥獣戯画』や『北斎漫画』を「元祖」「源流」として再発見 =近代大衆媒体として純化過程を通り、自己を価値づける

 宮本大人「「漫画」概念の重層化過程 - 近世から近代における -」美術史 03年3月 参照

宮本によれば「絵と文字」混在・相補関係の近世的表現から絵と文字の純化(絵画と文学の成立)→ いったん分離した絵・文字の再統合=近代漫画

 宮本大人 「「漫画」の起源 不純な領域としての成立」週刊朝日百科「世界の文学110 テーマ編 マンガと文学」01年9月所収 参照 必要なら図4 宮本論文のページ

戦後、手塚治虫による革新をへて、60~70年代の「若者文化」・青年化 市場爆発

戦前戦中までのニュアンスを含む「大人漫画」と、子供向けマンガから出発した現在に続くマンガを区別したい欲求(支持層としての戦後生まれ世代)→カタカナの「マンガ」へ

→今、認識されるマンガ(物語マンガ)へ →アニメとの深い関係のまま海外進出へ

MANGA表記の定着

3)  いくつかの混乱

◎コミックという横文字へのコンプレックスから、日本市場でも出版社中心にコミック、コミックス呼称が一般化し並存 英語圏でのコミック、コミックスとはまた異なる

◎マンガの青年化現象の前衛的な言葉として「劇画」が一時期定着(60~70年代) 貸本媒体に始まる一種の表現運動 現在では歴史的な呼称 BDを劇画と訳す例も

◎中国語圏での「漫画」と日本型マンガ 「北京カツーン」 香港、台湾、韓国では漫画 概念の並存・混乱? 新漫画 故事漫画 動漫(アニメ+マンガ) COMIC

コミック、カツゥーンも厳密な言葉ではない 漫画も同様 大衆文化の越境性・境界の曖昧さ

4)  まとめ 大衆文化としてのマンガ論の視覚

近代産業社会→とくに大衆消費社会の市場と消費者を背景とした文化(映画、マンガ)の流動性 本質論的な規定では追いつかない混交性・越境性

世界性と地域性の複雑な混交の様相 異文化衝突と新たな側面の創出

20世紀文化としての大衆媒体がおこす世界化と地域化のダイナミズムとしてとらえる必要 ドメスティックな理解、日本固有文化、伝統的起源を強調する認識枠組みでは届かない

日本の貸本、赤本的周縁メディア(ローカルチャー)は、流通・出版の近代化とともに東アジア広域で始まり、似た現象を見ることができる →今後の研究課題

夏目房之介「東アジアに拡がるマンガ文化」 四方田犬彦他「アジア新世紀」6『メディア 言論と表象の地政学』岩波書店 03年4月 所収 参照

Comment(2)