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夏目房之介の「で?」

『ショーシャンクの空に』

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かぁ~なぁ~りぃ~以前に借りた(つか、気づいたら借りさせられていた)DVD『ショーシャンクの空に』(スティーブン・キング原作)を観た。
いい映画だ。
モーガン・フリーマンもティム・ロビンスもいいが、半世紀も監獄にいて釈放されたあげく社会に適応できず自殺しちゃう老人が、いい。
最後の部分、絶望的な状況に陥った主人公が脱獄し、所長と看守長に復讐するトリックのくだりは、たしかにこの映画を娯楽として爽快なものにしていて、ヘンに暗い結末より好きだけど、でも、この映画がいいのは監獄の日常を描いた部分だね。とくに主人公が「フィガロの結婚」のレコードを監獄中に流してしまうシーンは好きだな。
人間、たまにはこういういい映画観ないとね。

たぶん原作では、主人公の性格形成についてもっと書かれているんじゃないだろうか。
彼の、地味だがコツコツと長い時間かけて物事を積み上げる性格と才能、逆に感情や思いを人に伝えたりすることができないコミュニケーションの欠損が、彼の元妻を不倫に走らせ、彼の監獄生活を当初困難にするが、皮肉にもその性格と銀行マンとしてキャリアが監獄内で開花し、最後のどんでん返しとトリックに関わってくる。

映画がいいのは、彼の妻には「つまらない男」と思えただろう性格、その地味で繰り返しの作業が好きな性格の、他人から見て不可解な面と、彼にとっては喜びであり、結果的に才能にもなるという過程をきちんと映像化しているところだろう。そして、彼の中の感情生活の豊かさをレコードの場面で印象づけ、何かをこつこつ続けることのリスクとメリット両面を映像的に作り上げたところだ。それでハリウッド的な「希望」の実現的ラストも、さほど甘く感じない。

これって、個人の資質とか性格とかじゃなくて、一定の人生時間で獲得するものの考え方にも置き換えることができる。
よく「継続は力なり」っていうけど、ある程度トシをとってはじめて獲得できる「知恵」でもある。一日に一歩しか登れない階段も、1年同じように続ければ365歩のマーチになり、三年続ければ千段以上の高みに登っている。そういうことを、ホントに実感したのって、僕の場合はけっこう人生経験をつんだあとだった。たぶん40歳過ぎてから。
どんなことでも、続けさえすればそれなりの結果になるっていう種類の物事があって、自分に続けられることであれば、ちゃんとメドはつくのだ。そして、その自信がなかったら、とりあえずやってみれば、可能か不可能かはわかる。
別にご大層に「素晴らしいこと」だとか「りっぱなことだ」とかじゃ全然ない。「できなくても、やっただけの経験はつめる」とかって、若いうちならともかく、いい加減トシとるとそんな気休めはあまり意味をなさない。ただ冷酷なまでに現実的な「積み重ね」っていう物事の成し遂げ方があるだけなのだ。
もちろん、それから下りたい気分のときはあるけどね。今、けっこうそうだったりして(笑

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