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夏目房之介の「で?」

京都国際マンガミュージアムOPEN

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 「京都国際マンガミュージアム」が25日(土)OPENした。
 http://www.kyoto-seika.ac.jp/kyotomm/

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 24日(金)、開館記念フォーラム「現代マンガ・アニメのルーツとマンガの未来」が能楽堂でおこなわれ、パネリストとして参加。前日、いまだ作業の真っ只中で大わらわの中、内覧させてもらい、翌日、フォーラムへ。
 高畑勲さん、竹宮恵子さん、寺脇研さん(元文化庁文化部長)と僕、それに狂言師・茂山千三郎さんの司会。茂山さんは打ち合わせの段階で、かなりとまどわれていた。マンガは好きとおっしゃってたけど、もう少し詳しければね。
 僕はビデオ出演の養老さん(館長)の「吹き出しは日本語のルビ」論による、あたかも吹き出しが日本固有の伝統みたいな語りが気になったので、まずは「マンガ=日本固有文化論」批判をちょいと語っておきました。

そのさいとなりの高畑さんに「高畑さんも日本固有文化論的なことを書かれていますが・・・・」といったら、ブンブン首を振って否定された。う~ん、ご本人のつもりではアレ違うんだろうか。まぁ、いいけども(笑)。
 茂山さんはしきりに、海外で狂言をやったときに「日本の繊細な感情などは伝わらない」という側面を強調し、できれば「マンガ・アニメのルーツは日本文化」の方へもっていきたいようでしたが、意外なことに高畑さんがあまりそれに乗らず、ちょっとやりにくかったかもしれない。僕としては、それでよし、ってことですが(笑)。
 僕の語った他のポイントは、マンガミュージアムが研究機能を備えている点。これはアミューズメント施設になりがちな「このテの」施設としては可能性を感じる、ということ。
 それと、直前に聞いた京都らしい「自治」の意識と施設のからみ。京都のど真ん中、烏丸御池交差点近くの廃校になった小学校の、昭和3年の建物と敷地を利用している。この建築は、ちょっとアールデコな感じもあってなかなかいい。それで京都って、明治2年、政府より先に近代教育のための学校を地域住民が作ってるんだそうだ。すげぇ。江戸時代から継続する地域自治意識が生きてたんですな。
 学校の地権者が周辺住民であり、廃校になっても定期的に掃除したり、そういう強力なプライドがあって、逆に廃校跡を公的に利用するのに住民の許諾がえられない状況を作ってきたんだそうです。当然最初は「マンガなんて!」という反応だった住民と気が遠くなるほどミーティングを重ね説得したんだそうです。したがって最初に内覧したのは役人でもマンガ関係者でもなく、周辺住民なんだそうな。しかも、最終的には住民が数千万円を寄付して人工芝の庭を作ったというから驚き。これ、NHKのドキュメントになるなじゃないの? 「そらぁとだいちのあいだにわぁ♪」(笑)
 フォーラムはそれなりに面白かったと思うな。とくに寺脇さんの話は僕には面白かった。本当は、もちろん問題もたくさんあるし、指摘しておこうと思ったこともあるけれど、それは結局タイミングのないまま終わってしまった。
 寺脇さんのいうように最初から「国立」なんて枠じゃなくて、民間と施設の周辺住民に収集家などの協力、寄付があり、国も出資するという形で、こうしたミュージアムができるのは画期的なのかもしれない。また、ただ集めるだけじゃなく、きちんと研究・教育という側面も考えてあることも、もちろん評価されるべきだろう。

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←チャイルドルームでは『くもとちゅーりっぷ』を上映してました。お子さんとお母さんとかしか入っちゃいけないんだそうです。・・・・なんでぇ?(素朴な疑問)

 でも、残念なことに「船頭多くして」の権限曖昧状態を生み、ある目的に向かって組織化する独裁的な執行ができない。そのため、おそらく経営体として収益を生み、資本主義的に健康な状態で収集研究施設を維持するという課題に向かえないだろうってこと。これ、ヘタすると国や他の組織からの「おもらい経済」で成り立つものになり、結局「箱もの行政の無駄遣い」と同じ矛盾に陥る可能性がある。要は、たとえば商品をじゃんじゃん売れるような展示をやり、商品開発をすすめ、経済的に自立できる基盤を作るような方向にすすめる強力な人物が権限を持てるのかどうか、じゃないのかな、と思った次第。どのみち、入場料収入で成り立たせるなんて、ありえないんだからさぁ。
 でも、そんなメンドなことしてストレスにさらされてまで、このミュージアムに価値を見出す人がいるんだろうかってことですが・・・・いないだろうなぁ。ベンチャー系の若い起業家とか・・・・無理だよなぁ、きっと。少なくとも僕は、イヤです(笑)。多分、すぐ胃潰瘍で入院する。
 とはいえ、入場料500円で、あのマンガ見放題はかなりオトク。近所の方はいってみるといいです。
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海外の本なんかも、けっこう凄い数がある。一般には珍しいタイの5バーツマンガ(赤本、貸本的な猥雑さ満載!)なんかも見られる。僕は、はじめてポーランドやインドのコミックを実地に見た。しかし、本の保全、大丈夫なのか? まだまだ課題は多いぞ。知り合いが何人もかかわってるし、協力も約束したので、他人事じゃなくて心配ではある。うまくいってほしいものだ。

ヘッドライン
http://www.blog-headline.jp/travel/archives/2006/07/post_1131.html

少し不思議な小部屋
http://blog.livedoor.jp/sssf/archives/50603610.html

白生地や
http://shirokiji.cocolog-nifty.com/miurasei/2006/11/post_da2a.html

 あ、そうそう。能楽堂で、橋掛かりから出て、舞台で座って話すってのは、じつに珍しい経験で、面白かった。ふつうの意味では、やや集中できない感じの空間で、意識を切り替えるのにちょっと時間がかかった。茂山さんの祝言も、舞台側から聞けたし。
 さて、OPEN当日、昼ごろに様子見をしにいったら、けっこう人が入ってましたね。ふむ。とりあえず、よかった。若手の研究者とも少し交流できたし・・・・。
 その後、新幹線に飛び乗り、登戸の元の奥さんの家にゆき、「もうひとりの孫」に会う。挨拶したら、人見知りせずに抱きついてきてくれた。かわいい。酒で沈没したN井さんの「恥ずかしい写真」を撮ったりして楽しい食事を終え、帰宅。さすがに疲れましたぜ。へろへろです。
 でも明日は森下文化センターでマンガ編集者のレクチャー。期待の西村繁男さんである。

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