「データは新しい石油である」という幻想からの脱却
デジタルを追いかけるリアル
DXやIoTへの取り組みとともに、データ活用を掲げるプロジェクトが多い。
そして、このデータ活用に関しては、具体的な目的が示されず、データ活用そのものが目的化されているケースが少なくない。
誰が言い始めたのか、
「データは新しい石油である」
との比喩で、データさえあればマネタイズできる、という論調すらある。
そんなことは幻想であることを、実はみんな気づいているはずなのに。
そう、
「ほとんどのデータはゴミである」
と思う。
アフターデジタル2 UXと自由(藤井保文著)に、アリババのインターナショナル・ユーザー・エクスペリエンス・デザインの元責任者のポール氏の言葉として、このような記述がある。
「データエコシステムとかデータの売買という考えは全て幻想」
「データはソリューションにしないとお金にならない」
「どのような人に、どのようなベネフィットを提供するのかを考え、ソリューション化することを先にやらないとダメ」
DXやIoTなどデジタル化によって得られるデータをゴミではなく、原石にするには、どのようにしてデータを活かすことができるかを考える必要があるだろう。
僕は、そのヒントは、生まれた時からデジタルである"ネットの世界"にあるように思う。
「リアルは、DXやIoTによって、デジタルを追いかけている」
のだと思う。であれば、
「デジタルの世界で "当たり前" にできていること」
を知り、その価値を理解することが、データ活用の近道になりそうだ。
例えば、この僕のブログのGoogle Analyticsによるデータを見てみよう。
日毎の閲覧者数や現在閲覧している人の数がリアルタイムでわかるだけでなく、
どのような経路で僕のブログを閲覧しているのか
〜検索エンジンから辿り着いたのか? SNSの投稿などのリンクから来たのか?など
どの地域の人が閲覧しているのか
〜画像では世界地図になっているが、日本のどの地域からの閲覧かもわかる
曜日別/時間帯別の閲覧者の傾向
〜どんな時に僕のブログが読まれているのか?
といったことが簡単にわかる。
また、
このように、Webサイト内での閲覧者の行動:
どのブログ記事を何分閲覧していたか?
どの記事からどの記事に移動したか?
そのまま閲覧することをやめたか?
などということが数値として、かつビジュアルに見える化されている。
さらに、
このようなWebページにおいて、(このページがそれを仕込んでいるかどうかはわかりませんが・・・)、
イベントトラッキングによって、
- onload・・・ページやフレームの読み込みが終わった
- onunload・・・ページが閉じられた
- onfocus・・・フォーカスが当たった
- onblur・・・フォーカスが外れた
- onchange・・・内容が変更された
- onclick・・・クリックされた
- ondblclick・・・ダブルクリックされた
- onkeydown・・・キーボードのキーが押し下げられた
- onkeypress・・・キーボードのキーが押してはなされた
- onkeyup・・・押していたキーボードのキーがはなされた
- onmousedown・・・マウスボタンが押し下げられた
- onmousemove・・・マウスポインタがHTML要素の上で動かされた
- onmouseout・・・マウスポインタがそのHTML要素から離れた
- onmouseover・・・マウスポインタがそのHTML要素に乗った
- onmouseup・・・押していたマウスボタンがはなされた
- onsubmit・・・フォームが送信された
といったことまで閲覧者の行動を把握することができているのである。
Webページ内でマウスをどのように動かし、広告の上でマウスを止めたけれど、クリックしなかった、ということまでわかるということ。
そして、Webの担当者はこれらの情報をもとに、閲覧者の行動の意図を分析し、閲覧者にとって心地よいサイトとなるように日々カイゼンを繰り返すとともに、サイト運営者の利益を追求する、ということが行われている。
これが、
「リアルが追いかけるデジタルの世界」
であろう。
デジタルを追いかけているリアルの最も参考となる事例は、Amazon Goではないだろうか?(残念ながら未だ行ったことがないが)
既に言い尽くされていることだが、Amazon Go は単なる無人レジ/セルフレジの店舗ではないようだ。
買い物客の行動を全て把握している。先ほどのWebサイト閲覧者の行動把握データと同様に、
買い物客がどの棚の前に何秒立ち止まったか?
どの商品を手に取り、しかし買い物カゴに入れずに戻したか?
買い物カゴに一旦入れた商品を、他の商品と入れ替えたか?
などというデータを取得している。
小売の世界で言われる「買わなかった理由を分析する」データが取れているということである。これは、日本の多くの小売店舗で実装されているセルフレジ/無人店舗では実現されていないことではないだろうか?
このように、DXやIoTを目的化し、その結果として得られたデータを単純に石油だ、このデータを活用せよ、と叫ぶのではなく、既にデジタルの世界で "当たり前" にできていることを参考に、リアルな世界の情報が "デジタル化" された後のデータ活用を考えるのが良いのではないだろうか?