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「進化し続ける繊維」銀座・奥野ビルのギャラリー巷房にて

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8月25日のお昼過ぎ、銀座・奥野ビルのギャラリー巷房、「elegant control system」に行って参りました。

田坂須美子さんによるファイバーアートの作品展です。

プッチーニのオペラ「トスカ」より『星は光ぬ』。
テノールのカヴァラドッシによって歌われるアリアです。
このオペラをテーマにした海外での美術展に出品したという、大作「Beyond The Last」が特に素晴らしかったと思いました。

この作品に、顔を近づけて良く見ると、生地が繊細なレース状になっています。
そして、生地には、アルミニウムを薬品によって腐食させたという金属の素材が編み込まれています。
この腐食させた金属が、一体どのくらいの年月ここにあったのだろうとイメージさせるような、悠久の時間を感じさせてくれます。

さらに、木の葉のようなモティーフの刺繍が施され、規則正しく繰り返されるというより、きわめて自然な不規則性をもったリズムとして連続され、それが全体に広がっているのです。
それはよく見ると、人間の細胞のようであり、宇宙の星雲のようでもあります。
これは、進化し続けた繊維、という感じがします。

「Movement of Five Spirits」も、巷房の柔らかい照明を当てることにより、生地やレースの透け感が表現され、より有機的な温かみをもち、一枚の布から奥行きと一つの宇宙を感じさせました。
光と風が通り抜け、一枚の布を時間が通過していることで無限を感じさせてくれるのです。
物事は進化し続けるとより自然に近くなるように思えます。この作品からは、山に入ったときに自然の中に存在するものと共通するような感覚を覚えます。

巷房のある『奥野ビル』。
1932年築の本館と1934年築の新館が左右対称に並ぶ6階建のビルで、80年前に建てられたものです。
ギャラリーの床をよく見ると、約80年の歴史そのまま、自然な朽ち方を残しています。
その床の色使いと作品が一緒になって一つの世界を作り上げていました。
作家の方によると、「そのためにこのギャラリーを使いました」とのこと。

そのとき私は、以前、ブラームスの晩年の作品116,117,118をを勉強していたときのことを思い出しました。
ブラームスは晩年、深い境地に達し、孤独な心境をそのまま音に表現したような珠玉の小品集を作曲しました。それらは一つの宇宙を感じさせます。
若い頃の大作「ソナタ」、など、技術を駆使したものはなんとかなったとしても、晩年の作品の、その渋さ、奥深さ、自由さは、若い未熟な自分には難しく、手に負えないものでした。
苦労している私を見て、師匠が、棚からある一つの朽ち果てそうな金属製の宝石箱を持ってきたのです。
「これはお祖父さんから譲り受けたものです。銀製ですが、時間の経過とともに何とも良い色になっているでしょう。これは、すぐには出来ないものなのよ。”いぶし銀”とはこういう色のこと。ブラームスの音色に、ショパンやリストのようにキラキラとした音色を使ってはブラームスにならないのよ。こういう色をイメージして音を作りなさい。」

今回の作品から、時間や空間やリズムをアートとしてとらえる音楽と共通するイマジネーションを感じました。

会場にいらした作家の田坂須美子さん、素晴らしい作品と、ご丁寧な説明をいただきまして有り難うございました。


開催は8月25日(月)〜8月30日(土)。
時間は12:00 - 19:00 (金曜は 17:00まで)
場所は銀座1-9-8にある奥野ビルです。
3階の「巷房1」と、地下1階の「巷房・階段下」で行われています。

場所のリンク→巷房

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