メンバーにプレッシャーを与えずに力を発揮させる言葉とは
周防正行監督といえば、「Shall we ダンス?」。
周防監督のリズム感と何となく官能的なカメラワークが好きで、「Shall we ダンス?」の5年前に撮った「シコふんじゃった。」を観てみることにしました。
本木雅弘さん演じる、就職は決まっているのに卒業の単位が足りない大学生役の秋平が、単位と引き換えに渋々廃部寸前の弱小相撲部に入部することになります。その後、たった一人の相撲部員、竹中直人演じる青木、そして外国人や女性も含めて、相撲をやったこともないメンバーとで練習を重ね、相撲の楽しさに目覚め、本気になっていくというストーリー。
周防監督の映画は、「コミカルなのに笑えない」という不思議な深みと間があるのが特徴です。
コメディタッチでありながら、役者にスッと深い台詞を言わせるので、つい考えてしまうのです。しかし、不完全燃焼ということもなく、最後には大変気持ちよく見終わることができます。
「シコふんじゃった。」では、相撲部の顧問、柄本明さん演じる穴山教授が、言葉少ないながらも、「言うべき時に言うべきことをきちんと言う」人の成長を支援する指導者としての姿が見事だったと思いました。
私自身、「なぜ、あのとき、きちんと言わなかったんだろう」「もっと適切な言葉があったはずだ」と、研修やレッスン、会議など、部屋を出てから階段の踊り場で頭を抱えることが多く、穴山教授の言葉一つ一つには深く考えさせられました。
特に素晴らしいのは、決勝戦「ここ一番」、団体戦でこの一本で勝負がきまるという場面。
本木雅弘さんを勝負の土俵に送り出すときの言葉です。
「相手は強い。お前が平幕なら相手は横綱。しかしだからこそ勝機がある。向こうは勝って当たり前だからな。多分突き放してくる。素人とやる時は離れて勝負をつけたい物だ。食いつけ。我慢して我慢して食いつけ。」
「はい」
「何も言わずに送りだそうかと思ったけど、お前ならもしかしてと思ってな。忘れるな。前みつを掴んだら絶対離すな。安心しろ。俺はここまでこれた事に十分満足してる。あとはお前が満足するかどうかだ。」
どんな人でも緊張してしまう場面で、これほどプレッシャーを与えずに力をくれる言葉があるでしょうか。
これは、「無限の可能性がある。」という心の深くに持っている信じる思いです。
表面に出なくても、無意識にそう信じている人の言葉からは深い安心感が伝わってきます。
自分は、本番前のレッスン生の方々に、こんな言葉がかけられるだろうか?
自分は本当に心から人の可能性を信じているのだろうか?
穴山教授の言葉から深く考えてしまいました。
デキの悪い私の可能性を、どんなことがあっても信じて支え続けてくださった方々がいたから、今の自分がある。
その感謝の気持ちを、この映画から思い起こすことができました。