オルタナティブ・ブログ > 永井千佳の音楽ブログ >

ライフワークとしての音楽を考えていきます

お金があるから作ってはみたものの・・・ ホールは管理が命

»

バブル時代に建てられた公共の多目的ホールは、素晴らしい設備の整ったところが多く、驚かされることがあります。
 
例えば、200人もはいればいっぱいのホールに、600人以上のホールに置くような高価で巨大なコンサート用グランドピアノが鎮座している。
 
しかし、先日初めて使ったホールで、あまりの管理の悪さに愕然としました。
心配だったので、信頼しているM調律師にお願いしたところ、私がホールに着いたとたん「これ相当ダメです」。
 
その前に来た技術者が、響きの悪いピアノに無理に手を入れたらしく、鍵盤の上半分のハンマーすべてが割れている。
しかも、持って帰るのを忘れたのか、「ハリ」という道具がハンマーに刺さりっぱなし。
もし、調律前にピアニストが弾いていたらと思うと、ゾッとしました。
また、何かを落としたのでしょう。低音域の鍵盤で貴重な象牙の鍵盤が何枚か割れる寸前。今すぐ割れるような状態ではないのですが演奏中に割れたらと思うとヒヤヒヤします。

しかも、湿度や温度に敏感な楽器にも関わらず、使わないときは舞台裏にそのまま放置してある。
これほどの高価な楽器を入れるならば、まず最初に、空調をコントロールして管理できるピアノ室を用意すべきなのです。
この状態では、せっかくの楽器も、すぐに劣化してしまい価値がぐんぐん落ちてしまいます。響きも悪くなるはずです。もったいないと思いました。
 
そのピアノは普段ほとんど使われていないのでしょう。
弾いてみると音が死んでいます。
本番まで何とか少しでも甦らせてほしくて、調律師さんに私の試弾の時間を削って追加調律をお願いしました。
 
M調律師さんは、ピアノを愛する人。
ヨーロッパの名器B社工場で修行してこられ、自分の家にも素晴らしいあの時代、古き良き巨匠時代のピアノを持って愛でているような方ですので、口調はソフトでも、その目には怒りがあふれていました。ホールの管理者に、手入れのひどさを優しく説明してあげていました。
 
調律によって何とか弾ける状態になったのですが、M調律師さんいわく「最後まで持つか保障できない」ということでした。
予感は的中し、コンサート後半はみるみるひどい状態に。なんと、中音域で戻りの悪い鍵盤が出てきました。さらに、ペダルの反応が悪くなってきて、特にソフトペダルがまったく効きません。指で調節するのも限界があり、終演後はぐったりと疲れてしまいました。
 
あの名器がなんたることか・・・・。
メーカーさんが聞いたら涙ぐんでしまうでしょう。
 
マネージャーさんや調律師さんと話していたのですが、バブル期に建てられたホールは、「とりあえず分からずに急いで作ってしまった」ものが多いのだとか。
ホールというのは建てた後が大変で、ほんとうに管理に手間や経費がかかります。
建ててはみたけれど管理しきれない、という現状のようです。
 
本当は、入れ物だけ素晴らしくても、良い楽器だけ購入してもダメで、その管理が大事なのですね。
 
音楽ホールというものは、やはり「管理を買うもの」なのだと改めて感じました。
 
素晴らしいホールというのは、生きています。
管理者が技術と知識とプライドを持っています。
舞台の「板」を見れば一目瞭然です。
 
バブル時代、たくさんのホールが乱立しましたが、本当の本物のホールというのはまだそんなに多くはないと私は思っています。心をこめて手を入れればどんなホールでも良くなります。
大変なことかもしれませんが、本当に気持ちの入ったホール、そんなホールが増えてくれることを願っています。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する