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ライフワークとしての音楽を考えていきます

エゴや操作主義はあってはいけないのか

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クラシックに詳しくない方でも、ヘルベルト・フォン・カラヤンの名前を知る人は多いと思います。
 
帝王とも呼ばれ、世界最高のオーケストラの一つ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に君臨していた指揮者です。
 
彼は、人を寄せ付けないような威厳ある風貌で、独裁者とか権威主義者などと言われてきましたが、実はそうではない面も持ち合わせていたようです。
 
世界的な名声を得てから、若い音楽家をバックアップすることをとても大事に考えていました。
例えば、アンネ・ゾフィー・ムター。
カラヤンの秘蔵っ子と言われ、10代の頃からベルリン・フィルのソリストとして招かれ、今や世界最高のヴァイオリニストの一人です。
その彼女が指揮を始めていると聞き、やはりカラヤンの影響が大きいのではないかと感じました。
 
そして最近、関西フィルハーモニー管弦楽団で、フランス人ヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイが指揮者として活躍しているのを知りました。
 
デュメイは、フランス人らしい節回しのうまさと豊かな情感を持つ音色で、今はあまり聴かれることのない巨匠の香りをたっぷりと持った音楽を聴かせてくれます。
先日もご紹介したピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュと共演した、ブラームスやフランクのソナタは、二人の息もぴったりで素晴らしい演奏です。
 
そのデュメイこそ、駆け出しの頃カラヤンに声をかけてもらい、彗星のようなデビューを果たした音楽家なのです。
 
カラヤンは、デュメイをベルリン・フィルでデビューさせて2年ほどたったとき、
 、
「指揮もやるといい。オーケストラには、全体を見る目と演奏技術を併せ持つ指揮者が必要だ。君にはそれができる」
 
と、アドバイスしたそうです。
 
それから30年。デュメイは指揮者として指揮台に立っています。
 
 
カラヤンは、音楽家としては大変にビジネスのセンスに長け、クラシックを一般の人たちに広く知られるようにした功績は偉大です。
自分の顔を決して左側以外撮らせなかったり、録画では楽団員に演奏する真似をさせて、後から完璧な音を入れたりと、操作主義の権化のようにも言われることすらあります。
また、エゴイストで嫉妬深く、オーケストラのメンバーが外で活躍することをあまり喜ばなかったといわれているカラヤン。
 
しかし、本当は無条件に若い演奏家を育てたいと真剣に考えていたのですね。
 
今、デュメイやムターが、ヴァイオリンだけに収まらず、さらに広い音楽観を持つ芸術家に育っている。
自分が亡き後も、影響を与えた素晴らしい芸術家が羽ばたいている。
 
エゴや操作主義も、極限まで広げると「無」に帰るのではないかと思わせます。
 
そして今私は、彼らの音楽からカラヤンの優しいまなざしを感じているのです。

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