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心の棘が洗い流される枯淡の境地 ブラームスの小品集

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「からたちの花」「この道」「かやの木山の」など、数々の有名な日本の歌を作った作曲家の山田耕筰。
その中でも、特に最高傑作と名高い作品が「曼珠沙華」です。
 
この「曼珠沙華」を作曲家の林光さんが混声合唱用に編曲したものがあります。
 
林さんは、プロ合唱団「東京混声合唱団」のために、数々の日本の名曲を混声合唱に編曲してきた「日本抒情歌集」。林さんの卓越した腕で、ピアノ伴奏がショパン風だったり、モーツァルト風だったりして、耳に慣れ親しんでしまい、ともすると飽きてしまったような作品までがワクワクするような曲にリフレッシュされています。しかし、なぜか「曼珠沙華」だけはピアノ伴奏パートに手を加えていません。
 
林さんいわく、山田耕筰の原曲があまりに素晴らしくパーフェクトだったから、ということらしいのです。
 
この伴奏は、シンプルで一切の無駄がなく、作曲家が到達したであろう枯淡の境地を感じさせます。林さんが手を出すことが出来なかったというのがよくわかります。
私は、この伴奏を弾いていると、どうしてもブラームス(1833~1897)の晩年のピアノ小品集(作品116~119)を思い出してしまうのです。
 
クララ・シューマンの夫、ロベルト・シューマンが亡くなったあとも、クララが好きで仕方がなかったくせに、引っ込み思案な性格から何も言い出せなかったブラームス。
結局最後まで一人を貫き通しました。
 
これがモーツァルトだったら、もう喜んで結婚していただろうに。そういうブラームスがもどかしく、またいじらしくも感じてしまうのです。
そんなブラームスが、自分の日記をそっと開いて見せてくれているような作品が、晩年のピアノ小品集なのです。
 
これらを勉強したときは、本当に苦心しました。
自分が若すぎて「枯淡」の色調がまったくでないのですね。
しかし、ショパンやリストで華やかな音色を追求してきた「手」に、ブラームスは音楽の本当の深さを教えてくれました。
過去の作曲家は、この世からいなくなってもなお私にたくさんのことを教えてくれる先生であり、残された作品は最高の教科書でもあるのです。
 
かの坂本龍一さんも、ブラームスの小品集が大好きで、グレン・グールドの演奏をいつも身近に置いて聴いているそうですよ。
 
今日は、ブラームスの小品集の中からグレン・グールドの演奏で作品117-1を聴いていただくことにいたしましょう。
 
心の棘が流されて、暖かいものでくるまれるような、まるで母親の胎内にいるかのような音楽。
ぜひ聴いてみてください。
 
ブラームス作曲 間奏曲作品117-1→リンク

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