フィギュア女子のキム・ヨナが抜きん出ていた理由とは
金妍兒(キム・ヨナ)のオリンピック金メダルの演技を見て、感動を覚えたと同時に、あるヴァイオリニストのことを思い出していました。
あるときピアノのレッスンで、
「ロシアのヴァイオリニスト、マキシム・ヴェンゲーロフを聴いたけどあれはすごい。
まだ10代だというのに、もう大人の世界を知っている。
何ともいえない香りたつ色気がある。」
と、先生が話していたことがありました。
彼は、当時まだ16歳くらいだったのではなかったでしょうか?
ヴァイオリンは楽器の中でも特に若いときの楽器と言われています。
大器晩成型の演奏家は、他の楽器に比べるととても少ないと思います。
私はそれから何年もたってから聴いたのですが、ヴェンゲーロフは明らかに単なる天才とは違うと思いました。
腕が鳴るようなテクニックと、ちょっと個性的で不自然な姿勢、そして、際立っていたのが、弓にすごい圧力をかけて楽器に吸い付かせるような弾き方をし、分厚い音を響かせます。
そして、その厚みのある音で奏でられる煽情的なポルタメント(音のずり上げずり下げ)が堂に入っていて、官能的でものすごくセクシーなのです。
人間の動物的な本能に直接呼びかけるとでもいうような、そういった演奏です。
持って生まれたものが違うとはこのことを言うのではないか、と思いました。
しかし、そのヴェンゲーロフ、ちようど2年前の2008年4月に引退していたことが分かりました。
なぜかこの頃、名前を聞かないな、と思っていたところでした。
その時点でまだ33歳。
早すぎます。
以前から良くなかった肩を完全に壊してしまい、復帰は不可能だそうです。
あの不自然な姿勢と、強すぎる圧力をかける演奏スタイルを長期間休みなく続けたら、どんな丈夫な人でもいつかは故障するのではないか、と一抹の不安を覚えていました。
1ステージ500万円とも言われる、クラッシックの演奏家としては最高ランクの超高額ギャラをとる演奏で、常に完璧を求められていたプレッシャーもあったかもしれません。
今回のフィギュア女子で、金妍兒から立ち昇っていた19歳とは思えない色気。
そして、ガーシュインの「ラプソディ イン ブルー」に比べたらずっと玄人向けの曲、「ピアノ協奏曲ヘ長調」の音楽性を理解し、大人でも難しいと思われる官能的要素を、見事に感じ切って表現していました。
しかも、ここ一番での芸術的なジャンプも全て決めて、他の選手がスポーツ選手に見えてしまったのは私だけではなかったと思います。
15歳くらいのときから、もうすでに色気のある演技をしていて、素質は十分にあった金妍兒ですが、ここ4年で努力してさらにみがきをかけたのですね。
フィギュアもやはり若いときのスポーツ。
今後も彼女の演技、できるだけ長く見ていられることを祈らずにはいられません。
それでは今日は、ヴァイオリニスト、マキシム・ヴェンゲーロフの演奏を聴いてみることにいたしましょう。
彼のヴァイオリンが聴けなくなるのは残念ですが、今後は指揮活動をするとのこと。
今度は指揮で素晴らしい演奏を聴かせてほしいですね。