スティーブ・ジョブスは心をつかむリリックなテノール 5つの演奏法(その1)
アップルのスティーブ・ジョブス。
彼のプレゼンやスピーチは説得力があり、近年素晴らしい神通力を発揮していますね。
そこには音楽的な5つの特徴があると思います。
1、リリック・テノール
実際聞いてみると、思ったよりジョブスの声は高く、音域でいうとテノール、しかも繊細な声質のリリック・テノールではないかと思います。
ちなみに昨日の記事で取り上げたマリオ・デル・モナコは、ドラマティック・テノールで、太く劇的なテノールの代表的歌手です。
ドラマティックな方がどちらかというと説得力は強いのですが、ジョブスの声は叙情的で、長い間聞いていても疲れない、という良さがあります。
しかも、しっかりと腹から発声されているので声が良く通り、感情が強くのってくると意外に早口なところもあるのですが、どんな状況でも滑舌が良く、聴衆にとって聞きやすいのです。
声が高くてもキンキンしているわけではなく、声質に暑苦しさがないので、センセーショナルなことを言っていても、押し付けがましくないのが得をしています。
声質によって現代的でスマートな雰囲気が醸し出されているように思います。
2、アルシスとテイシス
音楽では、特に宗教曲を歌うとき、アルシスとテイシスで旋律を歌うことが大切と言われています。
それがうまくいって初めて人の心にふれる音楽となります。
「アルシス」とは上がっていく状態、「テイシス」とは下がっておさまっていく状態のことを言うのですが、ジョブスの話し方はアルシスとテイシスの使い方がとても上手です。とりわけ、テイシスの使い方に特徴があると思います。
プレゼンの前半では分かりやすいテイシスを多用します。
文章の終わりを下げて、ディミヌエンド(だんだん弱くする)させるパターンを繰り返すのです。
なぜ、宗教曲でテイシスがあるのでしょう。
これを繰り返すと、信者や聴衆の心が穏やかになり、安心感が増していきます。
牧師さんの話し方がそうですね。
聴衆を落ち着いた気分にさせ、心のひだをほぐし、開いていき、これから言うべき大事な内容が入っていきやすい状態にしています。
そして、重要な内容に近づくにつれて、アルシスを増やし、テイシスを少なめにしていくのです。
お約束の「And one more thing」このフレーズが出る頃は、もうほとんどアルシス、アルシスの連続となり、感動へ向けて期待を裏切らない緊張感を持続します。
次回は残りの3,4,5について書いていきます。