SaaS型の電子書籍の可能性を真剣に考えるべき時なのか
日本デジタルオフィスとマイクロソフトが、電子書籍クラウドサービスを発表した。
これ、仕組みとしては、PDFをWindows Azureにアップロードすると、HTML5に変換して配信できるようにしたもの。「DO!BOOK[SV]」と呼ばれる仕組みとなる。第一弾として、電子書籍「ぴあ+<plus>」の配信が16日から開始される。HTML5に変換するとはいうものの、部品に展開してHTML5化するとかいうことではなく、PDFはそのままのレイアウトで利用する。PDFに埋め込まれているリンクなどはそのまま活かされ、リンクされているところをクリックすると、ブラウザ上にリンク先のページなりが表示される。TwitterやFacebookとの連携機能も用意されている。
話が前後するが、この仕組みの電子書籍を閲覧するためには、クライアントのアプリケーションを別途インストールする必要はない。HTML5を表示できるブラウザがあればいいだけ。Androidなどでは、一部の機能がうまく動かないものもあるようだが、iPhone、iPad、PC、Mac、Kindle Fireなどなどで閲覧が可能とのこと。あ、たぶんWindows PhoneもOKなはず。SaaSの形式になるので、インターネットの接続は必須。とはいえ、3G回線でも快適に読めるような工夫もなされているとか。
ちなみに、すでに「電子ジブリぴあ」で、この仕組みを使って無料の電子書籍が提供されている。PCのブラウザで見る限り、昔からあるFlashベースの電子カタログの仕組みと変わらない。実際、そいうった電子カタログのシステムを今回新たにWindows Azureに対応させHTML5化して多くのデバイスで見られるようにしたとのこと。コンテンツはWindows Azureのストレージに格納される。Azureストレージには、Webサーバー機能があらかじめあるので、Webサーバーレスで配信が可能になっている。この使い方をすればWindows Azureで別途サーバーを立ち上げる必要がないので、コスト的にも安くあがるようだ。
さて、実際の電子書籍だが、紙をベースとしているのでレイアウト的にはきれいではあるけど、大きさ的にはかなり表示される文字が小さくなる。24inchのモニターとかであれば問題ないだろうけど、iPadでもちと厳しそう。iPhoneなどのスマートフォンは、とうてい読めるものではない。そうすると拡大して読むことになり、いわゆる読み物には対応していないと言ってもいいだろう。既存の紙のコンテンツをコストをかけずに流用するとなると、どうしてもこうなってしまう。まあ、ぴあの場合は、今後紙が先にありきってことではないはずなので、ある程度携帯端末で見ることを前提としたレイアウトでコンテンツを作れば、そういったことが少し改善されるのかもしれない。
とはいえ、これを電子書籍として売るというのはけっこう厳しいのではないかなぁと思う。ちなみに、当座、ぴあの電子版は売るわけではなさそうだけど。別途、Windows Azureに課金の仕組みを組み込んで、それと連携させる予定もあるようだが、こちらは来年3月にサービス提供開始の予定とか。AmazonやAppleとは異なり、日本デジタルオフィスが手数料をとることはないそうだ。
今回の仕組み、Windows Azureの使用料込みで価格は30万円から。安いと言えば安いのかも。じつは電子書籍プロジェクトのeBookProでもWindows Azureを用いた、クラウド型の電子書籍ソリューションを提供している。とはいえこれは、クライアントのビューワーアプリが必要なタイプ。多くの端末に対応するというのが、課題になっている。今回のように完全にSaaSにしてしまえば、もちろんそのあたり解決するのかもしれないが、オフラインでも読める利便性、ワンコンテンツですべてに対応させる際のフォーマットの問題などもあり、どうするのがいいのか悩み中でもある。
さらに、どうせSaaSにするのなら、書棚を共有したりする仕組みも欲しいし、ソーシャルリーディングする仕組みも欲しい。自炊だったり、他で購入したコンテンツも一緒に管理できたりするとさらに便利なんて考えてしまう。ネットワークがつながっているのが当たり前という時代も目の前にきているのだから、真剣にSaaS型というかクラウド型の電子書籍ソリューションに取り組む時期なのかもしれないなと思った次第。