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楽曲配信の価格は国際統一すべきか

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なんだか非現実的なタイトルのようですが、突き詰めるとそのような結論に結びつけて考えざるを得ない主張があります。松尾さんのエントリ「Amazonの4大レーベル囲い込みは、iTunes Store「終わりの始まり」?」では、amazon の音楽配信サービスが「米国外からのアクセスは禁止」とあります。(松尾さんは仕方がないと書かれていますが)「これを禁止しているレコード会社はけしからん」という主張です。

実際に禁止しているのがレコード会社なのか、サービス提供者側なのかわかりませんが、(基本的には)国境のないインターネットのことです。もし世界からアクセスできるようになれば、楽曲の購入が販売価格の一番安い国、つまり為替レートベースでの物価(あるいは購買力)の低い国に集中することが容易に想像できます。言葉の問題はありますが、CGM 時代ですから、これを乗り越えるための情報は、誰かが作ってくれることでしょう。そうなれば、実質的に国際統一価格を導入するしかないからです。

その際、レコード会社は安い国に合わせて価格を設定してくれるでしょうか。私は、そうは思いません。購買力の低い別の国に合わせて価格を設定したところで、その国に住んでいないアーティストの生活費が安くなるわけではないからです。そうすると、購買力が比較的高い国に合わせて価格を設定することになります。為替レートは、輸出入される製品のために決まるものですが、日常生活品とは異なります。購買力の低い国の人たちにとって、海外作品の価格が相対的に高くなり、そうした作品に触れにくくなるでしょう。海外利用の禁止を批判する人たちは、このような状況を望んでいるのでしょうか。もちろん商業的に成立することは前提ですが、そのような状況にならないよう、各地域の購買力に合わせて価格設定を変えることが、それほど「けしからん」ことだとは思えません。

さて、以前のエントリ「日本のCDはどれくらい高いのか」では、少なくともここで取り上げた洋楽 CD について日本の値段が極端に高いわけではないことを示しましたが(ただし、再販制度は値下げを阻害している)、このエントリに大木さんからいただいたコメントで中国での CD の値段がとても安いことが紹介されました。中国語がわからないので、ちょっと辛いのですが^_^;、実際に amazon.cn で調べてみると、たとえば Linkin Park の Meteora の販売価格は、米国では $12.97(約1,400円)ですが、中国では 12.9元(約190円)です(為替レート換算)。ただし、購買力平価($1=約150円、1元=約75円)を使って換算すると、それぞれ約2,000円、約950円となり、(倍額ですが)それほど大きな差ではなくなります。

もちろん、インターネットを通じた課金は為替レートで計算されるので、購買力平価は関係ありません。では、中国から CD を輸入して安く上げられるかというと、「送料」というハードルがあります。どうやら日本向けには100元(約1500円)くらいの送料がかかるようです。でも、輸入が禁止されているわけではありません。ちなみに、(非現実的ですが)もし国際間送料が無料になったら、そうもいっていられなくなるでしょう。送料様々ですね(←それは嘘) あるいは、メジャーな業者が中国から CD をまとめて輸入販売しはじめたら、価格破壊を防ぐために還流CD防止法を適用して輸入を阻止しようとする動きが出るかもしれません

誤解のないように補足しておくと、インターネット上のサービスは地域別価格を導入すべきだとか、どんなサービスでも地域別に分割すべきだと主張しているのではありません。販売体制を国別に用意する場合は、地域別に扱わなければ体制を維持できないということです。たとえば、私がドメイン名やホスティングに凝り始めたのも、海外の安価なサービスを見つけたからです(当時、作っていたサイト)。当時、日本のサービスよりも、はるかに安価に利用できましたが、こうしたホスティング業者は零細で、海外支店を持っていることはありませんから、他国のユーザーを拒否する理由はないわけです(もっとも、たいていの業者は潰れました)。
1and1.com という大手の会社は地域別で利用者を限定し、個別の価格を設定しています。
末岡さんのエントリによれば、ヨーロッパでは iTunes Store の価格を統一する動きはあるようですね。

地域別価格/サービス地域の分割する副作用として、それぞれの国/地域ごとにサービス業者(amazon とか iTunes など)との提携が必要になるということがあります。先のエントリ「報酬請求権を推進するために必要なこと」では、報酬請求権を得るためには登録が必要だと書きましたが、販売体制を地域分割しているわけですから、世界契約でもするのでなければ、それぞれの国ごとに契約が必要でしょう。レコード会社にとって、すべての海外アーティストの CD を世界中の販売ルートに乗せなければならない義務はありません。それなりの収益が見込めなければ取り扱わないのは当然でしょう。しかし、今のところ輸出入が禁じられているようすはありません(玩具のように輸出してくれないものにくらべれば、ずっとましです)。

また、サービス業者間でも競争があります。パソコン用音楽配信よりも、携帯用音楽配信の方が実入りがいいとか、国別の事情はあるでしょう。音楽配信の寡占化が進んでいる国では特定のサービスに楽曲が集中するけれど、サービス業者が乱立しているところでは楽曲が分散するということは普通のことです。どこでも楽曲を入手できるようにするため、競争を否定して業者間で価格統一を図るなんてことには私は反対です。ライセンス料が業者の言い値で決められるということでもなければ、競争の働きにくい再販価格制度が導入されてしまうかもしれません。

ちなみに、もう音楽は無料にしてライブで稼ぐようにしろ、と主張する人もいますね。私は暴論だと思いますが、無料なら地域価格差も関係ないですし、ライブは開催地の購買力ベースで収入を得られますから、問題が解決するように見えるかもしれません。しかし、ライブで生計を維持できるアーティストって、どれだけいるのでしょう。ためしに著書をお持ちの方に、自身の著書を無料でネット配信して、講演料で稼いでもらうというのも面白いかもしれません。

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