宇宙ビジネス・電気自動車・太陽エネルギーに挑戦するイーロン・マスクの実像。「モノゴトに魔法はない。志を持って実行するのみ」
「地球と人類を救う経営者」として最近話題のイーロン・マスクを描いた本「イーロン・マスクの挑戦 人類を火星に移住させる」(別冊宝島、2014年8月)を読みました。
1971年生まれのイーロン・マスク。その経歴は凄まじいものです。
1995年に起業したZip2社をその後売却し、2200万ドル(22億円)を手にします。
1999年にX.com社の共同設立者となり、これが2001年にPayPal社となり1億7000万ドル(170億円)を手にします。
この資金を元手に2002年に3つ目の会社として宇宙ロケット開発のスペースX社を起業。「人類を火星に移住させる」と宣言。
2004年に電気自動車会社「テスラモーター社」の会長、さらに太陽光発電の「ソーラーシティ社」の会長になります。
大学時代、イーロンは「人類の将来にとってもっとも大きな影響を与える問題は何か」と考え、「インターネット、持続可能エネルギー、宇宙開発の3つ」と考え、これらの事業を立ち上げています。
絵空事で終わらせていないのが凄い点です。
2010年12月8日、スペースX社が独自開発した宇宙ロケット「ファルコン9」は宇宙船ドラゴンを所定の軌道に投入、地球を2周して大気圏に再突入し、太平洋に着水しました。
スペースX社創業からわずか8年、民間の宇宙船としては史上初です。
打ち上げコストは1/10まで下げました。今後ロケット再利用を図り1/100まで下げることを狙っています。現在、国際宇宙ステーションに物資輸送を行いつつ、火星移住のための準備も進めています。
テスラモーター社では、ポルシェより速くフェラーリより安い電気自動車「ロードスター」を開発し販売。レオナルド・ディカブリオやブラッド・ビットといったセレブリティたちがこぞって購入しています。
本書では、あるロックスターはパーティでイーロンに、「ロードスターに文句がある。以前から持っているポルシェに全く乗らなくなった」と言った様子が描かれています。
さらに第2弾としてセダン型の「モデルS」も開発・販売しています。
さらにテスラ社の車に無料で充電するための新しいインフラとして、ソーラーシティ社により、太陽光発電による充電ステーション「スーパーチャージャー・ステーション」を世界に設立しています。
上記の一つだけの取り組みでも難題ですが、イーロン・マスクは、全て手がけて結果を出しています。
本書では、イーロンの取り組みや考え方も紹介しています。
感銘を受けたのは、何度も何度も失敗を繰り返し、成功への糧としている点。
3回失敗したロケットしかり、納期遅れとコスト増で苦しみ顧客の前払い金を私財で保証までした電気自動車開発しかり。そこにあるのは、「金儲けではなく“人類と地球のため”に働く・考える・行動する」という志です。
一方で、イーロン・マスクの考え方はきわめて合理的で真っ当。しかし実行するのは大変なことです。
---(以下、p.73より抜粋)---
「会社の名前で製品は売れているのだ」と思い込んでいる人がいるが、それは間違っている。まずは、素晴らしい製品があって会社のブランドを築く。ブランドは信頼であり、消費者は信頼に基づいて製品を購入してくれる。製品が先にあるのだ」
---(以上、抜粋)---
強い企業ブランドを持っていると、ついついそのブランド力に頼りがちです。しかし、本来はブランド力に頼らず、素晴らしい製品やサービスを作ることに全力を注ぐべきです。その結果が、さらなるブランドの信頼に繋がるのです。
当たり前のことですが、我々がつい陥りやすい罠について、的確に述べています。
---(以下、p.74より抜粋)---
「自ら積極的に批判に耳を傾けることが大切」である。では、どうやって自ら批判を求めていけばいいのだろうか?
その質問にイーロンは「友人に作った製品を見せるんだよ。そして、『どこが良いかは言わないでいいから、良くないところを教えてくれ』って頼むんだよ」
---(以上、抜粋)---
「批判に謙虚になれ」
当たり前のことですが、言うは易く行うは難し、です。
しかし批判に謙虚に耳を傾ければ、必ずよくなります。日々実践したいことです。
---(以下、p.75より抜粋)---
スペースX社は劇的にコストを引き下げてロケットを作り成功を収めている。しかし、これについてイーロンは「革命的なブレークスルーによってではなく、コツコツと地道な努力を積み重ねることで成し遂げたんだ」とコストダウンの意外な神髄を語ってくれた。
…「われわれの(コストダウンの)考え方そのものが、革命的なブレークスルーなんだ」
---(以上、抜粋)---
「愚直に積み重ねる」ことは日本人のお家芸だと思いがちですが、イーロン・マスクもまさに愚直に積み重ねています。
革新的イノベーションの時代から、持続的イノベーションの時代に変わりつつあることを、イーロン自身、認識しているのかも知れません。
愚直に積み重ねて実行するのに加えて、その先にシンプルな目標を定めて戦略的に考えている点が、イーロンの凄さだと思います。それは次のエピソードに現れています。
---(以下、p.82より抜粋)---
「我々のEV(電気自動車)はエコカーではなく、プレミアムカーだ」
そう宣言したイーロンのEV戦略は独創的だった。
所有することを切望し、持っている人に憧れ、持てば自慢したくなるEVカーを立ち上げ、まずは力ずくにでも世間の注目を集めるというものだった。
…値段も10万ドルを超える高級車だ。それならマスコミは取り上げ、世間も興味をそそられるに違いない。その次には、5万ドル程度のミドルクラスの4ドアセダンを送り出し、そして、最後は、大衆の手に届く2万ドルクラスのエントリー車を大量に生産する。これがイーロンが考えた型破りな戦略だった。
---(以上、抜粋)---
これは最初の電気自動車「ロードスター」を開発していた時の発言です。
最初にプレミアム車で成功し話題を取る。そのためにレーシングカーの名門・英国ロータス社と共同開発契約を締結。
次に経験に基づき蓄積した技術を活かして、ミドルクラスに広げる。
さらに量産効果でエントリー車を量産する。
電気自動車メーカーで、このようにシンプルでわかりやすい戦略的な製品ロードマップを持って明言しているのは、テスラ社だけなのかもしれません。
このようにイーロンの考え方はまさに王道。「モノゴトに魔法はない。志を持って実行するのみ」ということですね。
本書では、戦略的に考え、ものすごい愚直な実行力と交渉力で実現してしまうイーロン・マスクの姿をわかりやすく描いています。
今後日本でも、イーロン・マスクは大きな話題になっていくと思います。いま、要注目の一人だと思います。
ちなみに、テスラは既に日本語サイトがあり、日本でも販売中です。モデルSが823万円。大阪パナソニックセンターで試乗できます。