田坂広志著「ダボス会議に見る 世界のトップリーダーの話術」...人前で話す全ての人、必読の書
田坂広志著「ダボス会議に見る 世界のトップリーダーの話術」を読了しました。
本書は、ダボス会議やTED会議に長年参加してきた田坂広志先生が、世界のトップリーダーが語っている場に接し、そのうち15名の話術を紹介している本です。
ダボス会議では、首相・大統領・グローバル大企業トップ、およびその経験者など、世界中のトップリーダー2,500名が集まります。
話し手だけでなく、聴衆もトップリーダー。そしてこの場は、話し手であるトップリーダーが「値踏み」される場でもあります。企業のトップが発言した場合、株価に影響を与えることもあります。
ネットやメディアが発達している現代において、忙しいリーダー達が何日間も一カ所に集まる理由を、本書では次のように書いています。
---(以下、引用)---
(P.23)
ダボス会議に、世界中から多くのトップリーダーが集まり、互いに値踏みや品定め、品評をするのは、「実際に、その人物を見る」「実際に、その人物の話を聴く」ことによってしか分からないものがあるからだ。
(p.24)
スピーチや発言においては、
「言葉のメッセージ」以上に、
「言葉を超えたメッセージ」が、聴衆に伝わる。
---(以上、引用)---
たとえば、一瞬にして聴衆の心を掴むイギリスのブレア元首相の話術については、このように紹介しています。
---(以下、引用)---
(p.43)
「聴衆に対して何を語るか」以前に、「聴衆から何を聴くか」。
その技術をこそ、学ぶべきであろう。
(p.44)
話者として「聴衆に対して何を語るか」を腐心している段階は、まだ、本当のプロフェッショナルではない。この「聴衆の無言の声にどう耳を傾けるか」を考え始めたとき、我々は、本当のプロフェッショナルの世界を歩み始める。
(p.45)
会場の聴衆の表情や雰囲気を細やかに観察し、「無言の声」に耳を傾け、「無言のメッセージ」を読み取り、いま、どのような言葉やメッセージを発すれば、聴衆の興味と関心に応え、聴衆の共感や賛同を得られるかを、瞬時に判断する力量。
それが、ブレアの話術の本質である。
---(以上、引用)----
私は昨年7月に独立してから講演を数十回行っていますが、ここに書かれていることがいかに大変か、実感しています。
もともと私は、人前で話すことが大の苦手でした。そのために、まず「何を語るか」を考え、その通りに話すこと自体に、かなりの準備と手間をかけています。
しかし本書によると、これは本当のプロフェッショナル以前の世界。
一方で講演を重ねていくと、会場のお客様から、「そこはイマイチ分からない」「まさにそうだな」「なるほど気が付かなかった」といった無言の反応を、感じるようになりました。
真剣勝負の講演に繰り返し臨むことで、有り難いことに、少しずつ色々なことを学ばせていただいています。
このブレアの話術を紹介している章を読み込むだけでも、「細やかな感受性」「言い換え」「畳み掛け」「間の使い方」「リズム」など、実に様々なことを学ぶことができ、自分の経験と照らし合わせて色々と考えることができました。
本書ではこのような形で、下記15名のリーダーの話術を、15の視点で紹介しています。(役職は講演当時のもの)
ビル・ゲイツ -- 語るテーマで人格を選ぶ
ブレア・イギリス元首相 --- 聴衆の「無言の声」に耳を傾ける
サルコジ・フランス大統領 -- 「胆力」で聴衆を呑む
メドベージェフ・ロシア大統領 -- 「位取り」を過たない
キャメロン・イギリス首相 -- 「聴衆との対話」で勝負する
プーチン・ロシア首相 -- 「一挙手一投足」もメッセージとする
温家宝・中国首相 -- 「歴史」や「思想」を堂々と語る
クリントン・アメリカ元大統領 -- 「自然体」という究極のスタイルで語る
ゴア・アメリカ元副大統領 -- 情熱の奥に「冷静な視線」を持って語る
ブラウン・イギリス首相 -- 「腹に響く声」を武器にする
サッチャー・イギリス元首相 -- 「余韻」で無言の言葉を発する
ユドヨノ・インドネシア大統領 -- 「個性的なスタイル」で印象付ける
ラガルド・IMF専務理事 -- 「女性」の不利を、有利に転じる
ムハマド・ユヌス -- 「草の根の人々」を背負って語る
シュワブ・世界経済フォーラム会長 --「垂直統合」の思考を身につける
ビジネスパーソンは、仕事の責任が増すほど、より多くの人たちの前で話すことが求められます。仕事力の中でも、話術はとても重要なスキル。本書では、その具体的な考え方が紹介されています。
この15の話術のうち、1つだけでも自分に合ったものを見つけて身につけることができれば、私たちの仕事力は大きく向上させることができるはずです。
そしていつか、15の話術を極めてみたいものです。
本書の最終章とあとがきに、このような一節があります。
---(以下、引用)---
(p.213)
「話術」の八割は、「言葉を超えたメッセージ」である。
(p.215)
最高の話術とは、「言葉を超えたメッセージ」を、最も効果的に伝える話術である。
(p.221)
では、なぜ、この「道」が、「果てのない道」なのか。
「話術を磨く」ということが、究極、
「人間を磨く」ということだからである。
---(以上、引用)---
「話術を磨くということは、人間を磨くこと」ということは、まさに講演を重ねながら実感しています。
本書を読んで、講演の機会を多くいただくようになったことに、改めて感謝したい、と思いました。