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会社員が出版社の編集者に会っても、なかなか本の執筆にたどり着けない二つの理由と、その克服方法 #asacafestudy

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「ビジネスパーソンしか書けない本とは何か」ということについては、一週間前にこちらで書かせていただきました。

一方でビジネスパーソンが本を書こうとすると、「まず編集者と知り合いになって、何を書くか相談しよう」と考えがちです。

しかし、この方法ではなかなか本の執筆までたどり着けないように思います。

12/14の朝カフェ次世代研究会でのプレゼン「会社員しかできない本の執筆術」でもお話ししたことですが、ビジネスパーソンがどのように本の執筆にたどり着くか、ということについて書いてみたいと思います。

 

私は2008年に初めて自費出版で本を出しました。翌年、出版社から1冊出版。今年は自費出版で1冊、出版社から2冊を出版。これまで合計5冊を出版しています。

そんな私も、最初の頃は「本を出したいんだけど、なかなか出版社の知り合いはいないし、どうすればよいのだろう?」と、気持ちだけは先走りして、方法が分かりませんでした。

そこで実は当初は「まず編集者と知り合いになって、何を書くか相談しよう」と考えていました。

当時、2006年に書き始めた当ブログで、マーケティングをテーマに書いていました。

以前から「本を書きたい」とずっと思っていましたので、出版社の編集担当の方に会う度に、「マーケティングの本を書きたいのですが」とお話ししていました。

しかし、話が進むことはありませんでした。

決してブログの内容がない、ということではなかったと思います。というのは、その後私が出版した5冊中、4冊のマーケティング関連の本に書いている内容の7割は2006年〜2008年のブログで書いた内容に基づいています。ブログに書いている内容が、本を書くのに不十分だ、ということではなかったのです。

 

今から考えると、足りないものが二つあったように思います。

 

1.そもそも、何を書くのか?(=企画書)

当初私は、「出版社の方なら、マーケティング関連で書いて欲しいアイデアを色々とお持ちだろうから、まず知り合いになって、お話ししてみよう」と考えていました。

でも違うのですよね。

まず自分で何を書くのか、ちゃんとした考えを持っていることが必要です。

編集者も忙しい訳で、本を書く力があるかどうか分からないビジネスパーソンとそのような話をする余裕はありません。

「何を書くのか」をまとめるには、企画書を作ることです。企画書では、以下の内容をカバーします。

・想定読者は誰か?(特定のペルソナを想定するとよいと思います)

・その読者にとって、本書はどんな価値(バリュープロポジション)があるのか?

・本書のメッセージを一言(20文字程度)で言えば、何か?

・ストーリー概要は何か?

・目次構成

・できれば、各目次の章立て毎に、ポイントやストーリーの概略を書く

上記があれば、編集者も出版の企画会議に出せるかどうか判断できますし、幸運にも企画会議が通った後も比較的スムーズに、かつストーリーもぶれることなく、本を書き進めることができます。

でも、もしこのような企画書がどうしても書けないとしたら、....?

それは「まだ本を書く力がない」ということです。企画書が書けない状態で、本を書けることはありません。編集者に会おうとする前に、まずは企画書を完成することに集中しましょう。

企画書を作る際のポイントは、「書きたいこと」ではなく、「読者が読みたいこと」を書くことです。当たり前のことですが、読者はお客様だからです。

もし「書きたいこと」を書くのならば、出版社から本を出すのではなく、自費出版すべきかもしれません。

出版では、印刷した本の売れないかもしれないリスクが必ず発生します。そのリスクを取った上で、編集・印刷という投資を行うのです。

そのリスクは、商業出版ならば出版社が持ちますし、自費出版ならば自分が持ちます。

あくまで出版社からの商業出版をしたいのであれば、出版社もビジネスとしてリスクを取っているのですから、出版社のお客様である「読者が読みたいこと」を書くべきですよね。

もしどうしても「書きたいこと」を書きたいのであれば、リスクは自分が持つべきと思います。固定ファンが付いている有名作家の場合は出版社もリスクを軽減できるので「自分が書きたいことを書く」でもOKかもしれません。しかし本を出したことがない人はそういうことはありませんから。

(私は自費出版の場合でも、「読者が読みたいこと」を書くべきだと思っていますが、これは個人の価値観次第だと思います)

 

2.本当に1冊書けるのか?(=証明)

企画書が完成しても、もう一つ壁があります。

本当に、その人が本を1冊書く力があるかどうか、という点です。

もちろんそういうことに関係なく、人気ブログを書き、そのまま本を執筆するといったように、この壁を楽々と乗り越えられるパワフルな方もおられます。

しかし一方で、多くの編集者はこの点を気になさっておられるようです。

実際、私が編集者の方とお話しする際にも、「永井さんの本を読み、本を1冊書く力はある人だということは分かりました。ですので会社員かどうかに関係なく、その点は心配していません」とよく言われます。

注意すべき点は、「ブログを書く」のと「本を書く」のは、文章を書くという作業は同じではありますが、実は全く異なるものである、ということです。

「一枚のいい写真」と、「写真展」を考えて見ると分かりやすいと思います。

例えばある写真が上手な人が、子供のいい表情をした素晴らしい写真を1枚撮ったとします。さらに、祭で1枚、週末に登山に行った時に1枚、さらに海外旅行に行った欧州で1枚、いい写真が撮れたとします。こんな感じでいい写真が40枚溜まりました。

その写真を並べて、写真展が成立するでしょうか?

写真を撮った立場で考えると、「自分のいい写真が40枚も溜まった。集めたら写真展できるかも」と思いがちです。

しかし、写真展を見に来るお客さんの立場で考えてみましょう。

子供の写真1枚、祭の写真1枚、登山の写真1枚、欧州の写真1枚、.....こんな感じで、テーマもストーリーもバラバラな写真展、見たいと思いますでしょうか?

私は、身内の写真展であれば別ですが、見ず知らずの人の写真展ならば、あまり見に行きたいとは思いません。

このように、「いい写真が撮れる」ことと、「写真展が出来る」ことの間には、大きな壁があるのです。

その違いは、ストーリー構成力です。

同一テーマで、ストーリーの一貫性を保持し、一定レベル以上の品質の写真を40枚以上見せられる力です。これは私が20代の頃、写真個展の審査で、落選を続けていた際に、身を以て学んだことでした。

「一枚のいい写真」が「ブログ」、「写真展」が「本」だ、と考えると、ブログと本の違いもお分かりいただけるかと思います。

ブログは1,000文字から多くても3〜4,000文字程度。一つのブログで一つのテーマを書くことが多いと思います。

一方で本は、5万〜10万文字程度。いくつかの章立てから構成され、それぞれの章が相乗効果を出し、1冊の本が、一つのメッセージを矛盾なく訴求できることが必要です。

このように、ブログを書くことと、本を書くことの間には、大きな壁があるのです。

 

この壁は、私が2008年に最初の本を自費出版した際にも、身を以て経験したことでした。

当初私は、「ブログに書いたマーケティング関連の話を整理すれば1冊の本になる」と考え、ブログのエントリーを分類し、いったん本にまとめてみようとしました。

今からすると安易な考えでした。まとめてから通して読んでみると、大きな問題があることが分かりました。話に一貫性がないのです。

例えば、ある章で書いている内容と別の章で書いている内容が矛盾していたり、微妙に違ったり。さらに1冊の本全体で何を言いたいのかが分からなかったり。

最終的に、3-4ヶ月かけて、全部書き直しました。

ブログに書いたことを活用する場合、まず骨太なストーリーを考え、そのストーリーに当てはまる内容を過去に書いたブログから持ってくるようにすると、はるかにスムーズに、かつ生産性が高く、よい内容の本を書くことができます。(ちなみに、「残業3時間を朝30分で片づける仕事術」は、この方法で、最初のドラフトはゴールデンウィーク休暇中の6日間で書き上げました。校正も含めても、11日間でした)

逆に、1冊を通したストーリーがないと、いくら個別材料があっても、本にはならないのです。

 

編集者からすると、ビジネスパーソンが本当にこのように1冊の本を書く力があるかどうかは、恐らく大事なことなのですよね。

だから、企画書が出来たら、まず自分で一冊書いてみることをオススメします。

必ずしもお金をかけて自費出版する必要はないと思います。

今なら印刷にお金をかけなくても、電子出版で本を出せます。どうしても印刷した本が1冊欲しければ、オンデマンド印刷という方法もあります。

本質は、「自費出版すること」ではなく、「一冊を書き上げる」ことなのです。

そして、自分で一冊書き上げることで、学べることは沢山あります。

 

(1) まずは、企画書を書くこと。

(2) そして、まずは一冊、自分で書いてみること。

 

この二つが出来るかどうかは、自分次第。

他人の判断や出会いといった、自分がコントロールできない他要因には、依存しません。

まずはこの二つにチャレンジし、実行してみることで、開けてくることは多いのではないかと思います。

 

 

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