「人口減少経済」、日本人の考え方の大転換が必要か!?
『「人口減少経済」の新しい公式』(松谷明彦著、日経ビジネス人文庫)を読了しました。
本書は2004年に書かれたものを加筆し、文庫本化されたものです。
5年前に出版された本ということですね。
以前、「確実に未来を予測できる数少ない要因」で書いたように、人口統計は未来を確実に予測できる数少ない要因です。
各年代に生まれた人間の数は変わりません。
いきなり「40歳」の人間は生まれてきません。当り前ですね。
本書では、その人口統計を豊富なデータを元に分析した結果、「人口減少経済」への対応は、日本全体で考え方の大きなパラダイム転換が必要である、と提唱しています。
「人口減少による影響は大きいだろう」とは思っていましたが、この本を読んで、今までの認識がまだまだ浅かったことを痛感しました。
同時に、「人口が減少しても、経済成長路線を維持するのだ」という巷で言われている主張についても、危うさを感じました。
本書では、日本は「成長増大」という考え方から、「付加価値増大」という考え方にシフトしていくことが必要だと述べています。
以下、引用します。
---(以下、p.39より引用)----
...日本人の人口は2030年には1億790万人と、2000年に比べて1760万人、14.0%減少し、2050年には8480万人と、同4070万人、32.4%も減少する。1950年の人口は8280万人であった。半世紀で5割以上の増加であり、先進国としては異例の速度の人口増加を経験したが、これからの半世紀でほぼ同数の人口減少を経験する。
---(以上、引用)----
今後50年間は、戦後の高度経済成長の50年間とは全く異なった状況になるということです。
また詳細は割愛しますが、
・今後30年間で、国民総労働時間は2/3に減少する
・外国人労働者の受け入れも、問題の先送りに過ぎず根本的な解決になっていない
・省力化投資も、過大投資を産み、成長力低下を招いている
等とも述べられています。(詳細にご興味がある方は、本書を参照下さい)
そして、
---(以下、p.78-79より引用)----
これまでの日本経済においては労働力と需要は上昇の一途であったが、これからは低下する一方であり、現在の日本経済は山の頂上付近にいるというわけである。(永井注:「現在」とは、本書が出版された2004年)
しかし「人口減少経済」になると状況は一変する。企業が新規投資を控えて生産能力を一定の水準に保ったとしても、需要が傾向的に縮小するから遊休設備は増える一方であり、...需給ギャップは時間とともに拡大する。同時に労働力も縮小するから、稼働できる生産設備の水準は年々低下する。....したがって「人口減少経済」においては、需要と労働力の縮小に見合う形で生産能力が低下しなければならない。
---(以上、引用)----
40兆円あった需給ギャップは、現在、政府の各種施策で35兆円に減りましたが、これからも需要はゆるやかに減っていきます。
官による需要向上策は限界があります。
需要を刺激する施策よりも、痛みを和らげながら供給を下げる施策が求められているのかもしれません。
これについても、本書は以下のように述べています。
---(以下、p.87より引用)----
「人口縮小経済」にあっては、需要が縮小基調となるから企業の売上高も縮小し、仮に利益率が変わらなくとも企業利益の額は縮小する。しかし、企業利益を確保しようとして賃金を抑制することはいっそうの企業利益の縮小につながる。.....目標とすべきは企業利益そのものではなく、企業利益と賃金の合計である付加価値であり、売上に対する付加価値の向上である。
---(以上、引用)----
つまり、賃金抑制は需要縮小を生み、その結果、さらなる売上減少と利益減少を生むので、「売上増大」を追わず、「利益+人件費」という「付加価値増大」を目指すべきである、と述べています。
確かに「成長戦略」よりも「付加価値増大戦略」の方が現実的かもしれません。
そして、本書では「人口減少経済」におけるあるべき企業経営についても述べています。
---(以下、p.107-108より引用)----
しかし今後は、まず生産量を適正水準まで縮小させ、さらに労働力縮小に応じて生産量の縮小を続けなければならない。そうでなければ経済成長率は筆者の予測よりもさらに低くなる。....企業は最適資本装備率を目標に行動するという経済学の枠組みが前提とされているからである。...
...今後の企業経営において心掛けるべきことは、「適正な生産量」「効率的な生産」「適正な賃金水準」の三つである。それらを守る限り「人口減少経済」は少しも恐くない。そして同時に企業がそれを守ることが国民所得を最大とし、国民生活を引き続き豊かなものとする。
人口減少下において経済成長を追究するのは愚かなことと言わざるを得ないが、国民所得の最大化は目標とされなければならない。
---(以上、引用)----
現在、国会などで少子化対策等について議論されています。
少子化対策も極めて重要なことですが、議論が「少子化をいかに食い止めるか」という段階で思考停止している感もあります。
仮に少子化対策が成功したとしても、人口減少傾向は今後数十年間、変わりません。
その効果が出てくるのはずっと先です。
それにも関わらず、必ずやってくる人口減少経済における日本のあり方に関して、本書に書かれたような議論は、ほとんど聞かれません。
需要を増やすための景気刺激策等で予算はバラまかれ、国や地方の借金は増大する一方ですが、将来借金を返せる国民の数は年々減る一方です。
確かに「物から人へ」という政策転換は必須ですが、それ以上にかなり思い切ったことをやっていく必要があるのではないでしょうか?
本書が上梓されてから既に5年が経過しています。
現在、人口減少経済において、我々は何を目指していくのか、国民的コンセンサスが求められている時期に差し掛かっていると思います。
あるいは、否応なく進む人口減少経済は、望むと望まざるとに関わらずその現実を私たちに突きつけてくるのかもしれません。
その際に、いかに痛みを和らげるべきなのか...政策担当者や企業経営者だけではなく、人口減少経済に生きる私たち個人個人に対しても、本書は様々なことを提言しています。
本書を読んで、色々と感じられる方もおられると思います。
「いや、それでも、日本の将来には成長戦略は必要だ」と考えになる方もおられると思います。
様々な意見で議論をし、今後のあるべき姿を考えていくことが、今後の日本を考えていく出発点なのかもしれません。
その出発点として、本書は大きな価値があると思います。
http://twitter.com/takahisanagai