冷凍ギョーザ事件は、トレーサビリティ元年となる契機となるか?
最近のニュースは、いわゆる「冷凍ギョーザ事件」のニュースで一色です。
輸入元の冷凍ギョウザは店から撤去され、中国製加工食品や、はては冷凍食品そのものにも影響が出始めています。
原材料の野菜への農薬散布の問題ではなく、製造工程又は流通工程で高濃度の農薬が入ったらしい、ということも分かりつつあります。
一部では、労使問題が原因で、故意に混入したのでは、との指摘もあったりして、色々な番組が様々な視点でこの仮説を検証しています。
ふりかえってみれば、昔は調達や流通は割と単純で、商品に問題が起こった場合の原因は割と特定しやすかったように思います。
しかしフラット化が進んだ現在、調達や流通がグローバル化し、多くの関係者が関わるようになりました。どこの製造・流通過程で誰が関わったのか、輸入元でも非常に把握しにくくなっているのが現状です。
ましてや、消費者は全く分かりません。
これを解決する手段の一つが、いわゆるトレーサビリティです。
商品の最小管理単位(SKU: Stock Keeping Unit)一つ一つにユニークな識別番号を割振り、製造工程と流通工程で誰が何をしたか一目瞭然に分かるようにする仕組みです。
仕入・製造・加工・流通のそれぞれの過程を、商品が通過する際に、それぞれの過程を通過したこととその作業責任者のデータをデータベースに記録し、必要な時にアクセスできるようにします。
さらに、消費者にもインターネット等を経由して、このデータに店頭などからアクセスし、今買おうとしている商品がどのように生産されたのか、分かるようにします。
言うまでもなく、この仕組みを構築するには莫大なコストがかかります。
しかしながら、冷凍ギョーザ事件や過去の商品偽装に関する一連の報道を見ていると、トレーサビリティを持たないことにより発生するコスト(不買運動・風評等による企業価値の低下等)と、トレーサビリティの開発・運用コストを比較すると、もはや前者のコストが後者のコストを上回りつつあるのではないか、とも感じます。
なぜ、最近になって、このようなことが起こるのでしょうか?
先に述べたように、これは、現在売られている商品の製造・流通過程が消費者にとって全く見えないことから起こっています。
「情報の非対称性」という言葉がありますが、かつては企業側が消費者と比べて圧倒的に多くの情報量を持つことで、企業側は消費者よりも優位に立つことが出来ました。
一連の偽装事件や毒入りギョーザ事件を見ていると、この「情報の非対称性」はいまだに存在しているように見えます。
ただ異なるのは、昔の多くの消費者は「情報の非対称性」の存在そのものをあまり意識できなかったのに対して、現在の多くの消費者は「情報の非対称性」の存在と、その背後に隠された情報と隠された行動に気付き、企業にその解決を迫っている点です。
そしてその消費者の要望に応えられない企業に対して、リスクを避けようとする消費者は「商品を買わない」という力を行使します。その結果、最悪の場合は、そのような企業は市場から退場させられることになります。
従って、一つの考え方として、トレーサビリティを、『「情報の非対称性」を徹底的に解消することによって、逆に企業が消費者の信頼を得るための手段』として位置づけると、その価値がより分かり易くなるように思います。
しかしながら、トレーサビリティはあくまで「手段」であり、解決策ではありません。
トレーサビリティを実現するためには徹底的な情報開示が求められます。それに応えられる企業文化や従業員の姿勢は大前提になります。
どの企業でもできることではありません。また、企業の性格からして、必ずしも必要がない企業もあるでしょう。
しかし時代は確実に顧客中心の世界に移行していきます。
そして、消費者ビジネスにおいて、中心となる消費者が情報の非対称性の解消を企業に求めるのであれば、消費者に対して商品を届けるビジネスを行っている企業にとって、トレーサビリティは避けて通れないものである、とも言えそうです。
このように考えていくと、「冷凍ギョウザ事件」は、トレーサビリティの重要性が世の中に広く認知され、今年が「トレーサビリティ元年」になる契機となるかもしれません。