1999年、IBMのソリューション戦略の転換
現在IBMはソリューションに力を入れていますが、ソリューション・ビジネスが現在の形になった大きな節目は1999年でした。今回はそのことを書きます。
1990年代、IBMはアプリケーションに積極的に自社開発していました。自己紹介で書きましたように、当時は私もアプリケーション製品の企画・プリセールス・開発等を担当し、お客様のSIプロジェクトにどっぷり入ったりしていました。
当初からIBMはソリューション・ビジネスを展開していましたが、1990年代後半からさらに力を入れ始めました。私はこの頃からソリューション・ビジネスのマーケティングチームに入りました。
IBMのバリュー・プロポジションは、「サービスやコンサルテーション等の上流からハード・ソフト等、全てを揃えて、エンド・トゥ・エンドでソリューションとして統合できる強み」です。
統合ソリューション構築にはビジネス・アプリケーションの組込みが必須ですが、IBM自身が自社開発アプリケーションを持つことで、案件毎にビジネス・アプリケーションに強いベンダー様と競合する場面が増えました。また、お客様も特定のビジネス・アプリケーションを指定することが多くなりました。
そこで1999年、IBMは全世界で方針転換をしました。
「今後IBMは、ビジネス・アプリケーション分野は業務系に強いアプリケーション・ベンダー様とパートナーシップを組み、IBMの製品・サービスと組合わせて、お客様にソリューションをお届けする」
つまり、アプリケーションは自前主義に拘らずに、それまで競合していた会社とパートナーシップを組む、というものです。
ソリューション・ビジネスでは、IBMのビジネスの大部分はハードウェア、ミドルウェア、コンサルテーション、関連サービスから生まれます。ビジネス・アプリケーションはソリューションの核で極めて重要な部分ですが、この市場は競合が激しく、かつ全業種に渡って幅広いアプリケーションをカバーする必要があります。
ビジネス・アプリケーション・ベンダー様との競合を解消し、協業することで、より幅広いソリューションを提供できるようになりました。
現在、ビジネス・アプリケーション・ベンダー様は、IBMにとって、統合ソリューションをお客様に提供する上で極めて重要なパートナーとなっています。
一方で、多くのビジネス・アプリケーション・ベンダー様にとっても、IBMは、自社製品を補完するサービスやプラットホームを提供してお客様との関係を構築する重要なパートナーと考えていただけるようになりました。
それまでビジネス・アプリケーションを開発していたIBMのソフトウェア開発部門は、よりIBMの強みを発揮できるミドルウェア市場にフォーカスしています。
「ソリューション市場」というエコシステム全体を考えた場合、それぞれの強みに応じて棲み分けを行うという戦略転換は現実的だったように思います。
尚、それまでIBMが開発・販売していた自社アプリケーション製品は保守を継続しました。また現在でも、お客様の業種によってはご要望に応じてアプリケーションを開発・販売している場合もあります。例えば、ホームページビルダーは2005年12月にはバージョン10を出荷しました。
お客様のご要望に応えるために立てている戦略ですので、この辺りは結構柔軟なようです。