バンコクでのとある一日 その1 透明人間になった日
皆様大変ご無沙汰しております。
宮沢です。生きていますよ。
書くことがなく、時間もなく、ブログをサボっていましたが、また書くことが見つかり、書いていきます。
昔よく読んでいただいた方もそうでない方もよろしくお願いします。
「透明人間になった日」
ある日、バンコク支社で仕事をしていて、昼間なかなか集中できないのと、その日はたまたまお酒のお誘いもなかったので、夜に集中して仕事をしていると、あっという間に夜の10時を回ろうとしておりました。これは、そろそろ食事でもして帰ろうかと会社を出て、タクシーを拾おうとしました。夜の10時ですが、タイ支社のあるアソーク通りは繁華街ではありませんが、ビジネス街として人通りは少ないものの、車はかなりの量が往来しております。渋滞の時間も抜けて、ちょうどよい時間にタクシーを拾えそうと思って、通りに向かってタクシーを呼ぼうとしました。
タイのタクシーは、乗車拒否が普通なので必ず乗る前に行く先を話し、タクシーの運転手に了解をもらってから乗るのが普通です。右手を横に上げて、乗車可の赤い表示のあるタクシーに対して、お客さんとしてタクシーを呼ぼうとします。
タクシーは、私の意向に沿わず、そのまま走り去ってしまいました。ああ、きっと乗車可の表示をしているけれど、実際はお客様が乗っていて、メーター利用ではない状態なのだ。と思いました。
(タイのタクシーはメータータクシーと言えど、メーターではなく交渉で価格を決める場合があります。例えば、渋滞していてタクシーが行きたくない場合、帰るつもりでいたタクシーなのにより遠くに行かなければならない場合、なんとなくこのお客さんは乗せなくない場合など、お客さんが乗るときに「どこどこまで」「じゃ**バーツです」という具合に価格をメーターを倒さずに決める場合があるわけです。そんな時、乗車可の表示でも、メーターにしていないだけで実際はお客さんはのっております。)
気をとりなおして、次のタクシーに対して、右手を横に出し、タクシーを呼びます。
タクシーは、方向指示器をこちらに向けてこちらの方へ、私は落ち着いて交渉するように気持ちを整えていると、何故か、私の前で止まらず、そのまま過ぎ去ってしましました。
あれ、おかしいぞ、と心の中で思いましたが、冷静に考えると、私の会社の前の道路には停車禁止の表示があります。いつも気にせずにタクシーを使っていましたが、考えてみると、タクシーにしてみれば、こんなところでお客さんを拾って、警察に捕まるなんて危険は冒せない、それに気づいてそのまま走っていったのだ、と考えました。
タクシーの運転手には申し訳ないことをしたなと思い、少し移動して、停車禁止から駐車禁止の場所に移動して、タクシーを拾おうとしました。そこでもう一度、右手を横に出して、タクシーコイコイと祈っていました。だが何故かタクシーが来ません。
しばらく待っていましたが、1台、2台と何故か私を無視していきます。私は自分の服装を見直し、変なところはないか、気にし始めました。そして3台目が見えた時、私の後ろから、ビジネススーツ姿の女性が私の右側に急に出てきて、なんとタクシーを呼び止めたのです。私がずっと待っていたのに、その女性はそんなことお構いなしにタクシーを呼び止めるとなにやら交渉して、友人らしき人を呼んで、タクシーに入るように促し、自分は乗らずに立ち去っていきました。
これはどういうことだろう。私は急に不安になりました。あまりにもおかしな状況です。こんなこと今までありません。まるで宮沢本人がいないような状況です。タクシーにも、ビジネススーツの女性にも私が見えていないのでは?
そして、その理由は?
自分の好きな映画の「黄泉がえり」や昔読んだ小説によくある、主人公が実は死んでいて、生きてるような描写が行われているパターンか?と思い至りました。
やばい、いつ死んだのだろう。過労でさっき死んだのか。送ったメールは届いているのだろうか?届いていないで脳内で処理されただけなのか、などとばかな考えをめぐらせました。あまりのショックでその場で立ち止まっていました。長いような短い時間が過ぎていきます。
そんな不安な時間は、急に終わりを告げます。なんとタクシーが私が呼びとめようとしたわけではないのに、私の横に止まっているではありませんか。窓を開けて「どこまで?」と聞いてきます。私は「***まで」と答え、運転手は満面の笑顔で「OK」と言ってうなずきました。私はすかさず、後ろのドアから乗り込み、さっきまで夜10時なのにやたらと暑いバンコクの空気から一転、タクシーの中の冷えに冷えた社内で落ち着きを取り戻しました。
よかった、このタクシーがいなかったら、私は透明人間のままか、死んだことになったままだったのだ。と変にこのタクシーの運転手に感謝して、いつもは決して話しかけないのに、このときはやたら雄弁に、「いや運転手さんにとまってもらって助かりました。」と告げました。運転手はニコニコ顔で「商売だからね。タクシー乗りたい人はわかるんだよ。」と明るく答えてくれました。私は目的地につくと、いつもより少しだけ多めにチップを渡してタクシーを降りました。
さて、今度は透明人間にならないように、と思いながら行きつけのレストランに入りました。
今日はここまで、またいつかお会いしましょう!