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このブログでは、コンサルティング会社で、システム開発やプロジェクトマネジメントの現場を経験してきた弁護士の伊藤雅浩が、ITビジネスに関わる法律問題や契約問題を中心に書いていきます。

画面デザインは法律上保護されるか?(2)

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 こんにちは。弁護士の伊藤雅浩です。

 前回(リンク)に続き、ソフトウェア、ゲームの画面の模倣という問題について意匠権の方向から考えたいと思います。

【意匠法とは】

 意匠法は、主に工業製品のデザイン保護を目的とする法律です。著作権は、特に出願、登録行為などを行わずとも、創作行為によって生ずるのに対し、意匠権は特許庁に出願し、審査を経た結果、法律に定める要件を満たすものについてのみ生ずる権利です。

意匠権 著作権
保護の対象 意匠(物品のデザイン) 著作物(映画、小説、絵画等)
権利の発生 登録により発生 創作により発生
存続期間 登録から20年 原則として著作者の死後50年まで

 

 上記のとおり、意匠は特許と同様に、登録によって権利が生じますから、特許庁のデータベースを見れば、どのようなものが登録されているのかわかります。これに対し、著作権は、極端な話、子どもが書いた絵にも発生しますから、世の中には無限に著作物が存在します。

 例えば、「携帯情報端末」として意匠登録されているものには次のようなものがあります。
 アイフォン1.png

<意匠登録 第1383724号>


【意匠法で守られる画面デザイン】

 典型的には、意匠法は、上記のようなハードウェアのデザインを保護しています。しかし、近年、画面デザインに対する保護ニーズが高まり、平成18年に意匠法が改正されるなどして、一部の画面デザインについて意匠登録できるようになりました。例えば、次のような意匠が登録されています。

アイフォン2.png

<意匠登録 第1390732号>

 

 これは携帯情報端末(iPhone)のメール作成画面です。点線で囲った部分意外の部分が、「部分意匠」として登録されています。第三者が、これと同一/類似のメール作成画面を有するスマートフォンを製造、販売すると、意匠権侵害となりえます。

 これを見ると、画面デザインも意匠法によって保護されているから、どんどん登録すればよい、とも思えるのですが、なかなかそうはいきません。現在の意匠法では、「物品」と一体となったデザインでなければ保護の対象とはならないとされており、この要件が厳格に適用される結果、次のような画面は、意匠法の保護対象となっていません。

 

理由

PCのOSやアプリケーションの画面

物品と一体的に創作されたデザインでなければ保護の対象とならないところ、ソフトウェアの画面は、たとえプリインストールされたものであってもPCとは別個に創作されているから

ゲーム機のゲーム実行中の画面

上記と同様の理由により、ゲーム機とゲームソフトは別個に創作されているから

アイコン画像単体

物品と一体性をなしていないから

ウェブページの画面

ウェブページの画面は、表示される物品(ディスプレイ)とは別個に創作されているから

 

 また、意匠法で保護される「画像」とは、「物品の機能を発揮できるようにするための操作に用いられる画像」でなければならないとされています。アプリケーションソフトやゲームソフトで表示される画像は「物品の機能を発揮できるようにするための操作に用いられる画像」なのではないかと思えるのですが、特許庁の審査基準によれば、コンピュータの機能は「情報処理」ですが、ソフトの実行中の画面というのは、すでに「情報処理」機能を発揮している状態であって、「機能を発揮できるようにするための」画面ではない、という説明がなされています。分かりにくいところですが、現行の制度のもとでは、OSも含め、起動中のソフトの画面は保護の対象外です。

 逆にいえば、意匠法で保護されるデザインとは、PCなどの汎用機ではない①専用機において、②組み込みされていて、③製品出荷時から記録されているものに限られます。実際には、携帯電話にあらかじめ用意されている機能選択画面など、対象は限定されています。

(つづく)

 

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内田・鮫島法律事務所

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