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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

「ピボット」:失敗は成功の元

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 日本の著名なゲーム企業、任天堂、ディーエヌエー、ミクシーの共通点は何か?それは、ピボットして大成功した会社だということだ。ピボット(Pivot)とは、事業を根本的に「転換」することである。

 任天堂はトランプのメーカーだったが、家庭用ゲーム市場を開拓して大化けした。ディーエヌエーは、ネットオークションで苦労が続いたが途中で携帯ゲームを開発し爆発的な成長をした。ミクシイは、元々はネット求人広告の会社だったが、SNSを始めてブレークした。その事業もフェースブックに押され存続の危機となったが、スマホゲームで見事に復活した。

 自社が計画した事業が順調に成長すればピボットをする必要はない。最初に手がけた事業が全力を尽くしてもダメだった時、今の事業に未来はないと素直に認め、次の事業に果敢に挑戦する。それがピボットだ。シリコンバレーのあるベンチャーキャピタルによると、成功した投資先企業の95%が過去にピボットを経験しているという。

 ピボットと言えば聞こえがいいが、要は事業の失敗だ。ベンチャー企業の場合は、資金が枯渇して倒産寸前の場合も多い。社員を解雇することもしなければならない。ピボットには実は辛い現実がある。

 今、スラック(Slack)というグループ・コラボレーション・ツール(法人向けチャットサービス)を提供しているベンチャー企業が急成長している。製品名と同じ名前のこの企業は、わずか2年でユーザー数100万人を突破した。法人分野でのこの急成長は破格だ。企業価値は既に1,000億円を超えた。

 創業者のステュー・バターフィールドは、実はマルチプレーヤーゲームの会社を創業したが、ゲームは全く売れなかった。最後に白旗を揚げ、従業員の解雇を断行したのは断腸の思いだったという。ただ、資金を使い切る前に決断したので、残りの資金を元手に新たな事業を作る余力はまだあった。

 ゲームの開発作業のためのコラボレーション・ツールを探したが満足いくものがなかったので、社内開発した。それがスラックの原型だ。それを商品化することを決め、試用版をユーザーに使ってもらいながら徹底的に改良をくり返した。ゲーム開発という最先端の業務プロセスから生まれたので、グループチャットやアプリケーション連携など、時代を先取りするツールとなった。こうして短期間で爆発的に成長したのだ。

 さらに驚くべきことに、バターフィールド氏が創業したのはこの会社が初めてではなく、しかも最初の会社もピボットして成功させたのだ。彼の最初のベンチャーは、オンラインゲームだったが、鳴かず飛ばずだった。ゲーム事業を諦めたあと、そのゲームのために開発した写真の共有ツールを切り出してサービス事業に衣替えした。それが、現在では写真保管・整理サービスの代名詞となっているフリッカー(Flickr)である。のちに米ヤフー(Yahoo!)に40億円ほど(金額未発表)で買収されている。

 ピボットの大前提は「失敗を認めること」である。考え抜き、八方手を尽くした上で失敗を認めることによって、再び事業創造にチャレンジすることができる。

 日本では、失敗を潔しとしない風潮がある。予想通りの事業進展が見られないと、運営コストを大幅にカットして失敗を先送りする。これではゾンビ事業が存続するだけでピボットの機会がないから、成功は永久に来ない。また、行政のベンチャー振興策がなかなか成果に結びつかないのは、失敗が認められずピボットが許されないからだ。

 事業転換を「失敗(敗戦)」とは呼ばず、あえて「ピボット(転戦)」と呼ぶところにシリコンバレーの知恵がある。「失敗」と言うとそれを認めず玉砕まで頑張ってしまう。「ピボット」と呼べば、手遅れにならないうちに転戦して再チャレンジが可能なのである。

日経産業原稿 3/29/2016

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