オルタナティブ・ブログ > めんじょうブログ―羊の皮をかぶった狼が吠える >

シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

IoT 時代の鍵は全体アーキテクチャー構成力だ

»

 今年(2014年)1月、創業4年のネスト(Nest Labs)がグーグルに32億ドル(約3,200億円)で買収された。ネストは、家庭用の温度コントロール(サーモスタット)を開発しているベンチャー企業。(アメリカの家庭は一般的にセントラルヒーティングで、サーモスタットが壁に付いている。)こんな枯れた分野のベンチャー企業に何故3,200億円も?

 今までのサーモスタットは一週間分の温度設定のパターンをプログラムできるようになっているのに、ネストのものは「温度を設定する」という単純な機能しかない。それでいてネストのサーモスタットは、自動的に家の温度調整をしてくれる。実は、ネットでクラウドにつながっており、顧客の温度設定のパターンを学習し、自動的に顧客の状況に合わせた温度を設定しつつ無駄を無くすことにより、年間数千円程度以上の節約が可能だという。スマートフォンから遠隔操作することもできる。家庭内で誰も気にも留めないサーモスタット分野に、シンプルなデザイン、簡単操作、それにエコの機能を入れるだけでいきなり100万台以上売った。

 しかし、3,200億円の企業価値の本当の理由は、家庭内の場所取りとビッグデータのデータ収集にある。一旦家庭内の壁にサーモスタットが設置されネットに繋がれば、顧客の家庭環境とネストの間が常時接続でつながったことになる。例えば、サーモスタットにさらに違うセンサーを付加すれば、新たなアプリケーションを提供することも可能であり、遠隔操作でのソフトウェア更新も可能となる。さらに、多くの顧客と繋がっていることで、広い範囲での最適化を進めることができる。例えば、エアコンと繋がっていれば、真夏のエネルギー消費が集中する時間帯の各家庭の温度設定を最適に調整して、グリッドレベルで電力のピークをカットすることができる。電力会社にとってはピークカットが死活問題なので、このピークカットのために顧客とネストに喜んで報奨金を支払う。この仕組みができてしまえば、サーモスタットを無料で配ることさえあり得る。さらにアプリケーションを膨らませば、火災報知機、ホームセキュリティー、空気清浄、などにもサービスを広げることができる。(実際、ネストは2番目の製品として火災報知器を発売している。)

 ネストの例はIoT時代の事業創造のモデルを示している。①単純で研ぎすまされた顧客価値と美しいデザインで端末デバイスを大量に普及させる、②ネットでクラウドにつなぎ、中央で高度なデータ処理をして顧客価値を高める、③ネットを通じて顧客の製品を継続改良する、④多くの顧客のデータをビッグデータとして分析することにより全体最適し、顧客と関係事業者の双方に利益をもたらす、⑤他の製品とのデータ/アプリケーション連携をすることによりさらに顧客価値を高める。

 日本でこのような発想の製品がなかなか出て来ない理由は、ビジネス全体のアーキテクチャー構成力の弱さにある。ネスト創業者のトニー・ファデルは、アップルのiPodの設計をした人物である。音楽プレーヤー単独ではなく、音楽サービス全体の発想で設計を行った。日本で得意な職人芸的なものづくりは微細の部分最適が重要でありビジネスアーキテクトと根本的に文化が違う。だから、思い切って、ビジネスデザインのアーキテクトは外部から持ってくる発想も必要だ。ファデルは、外部からiPodのアイデアを持ち込みアップルで花咲かせた。今度はグーグルに参加しスマートホームの分野で新たな風を吹き込む。

 一方で、ファデルは端末のものづくりでは苦労したと言う。日本はその高いハードウェア技術力を提供し、換わりにシリコンバレーのビジネスデザイン力を得ることが、IoT事業創造のモデルとなるであろう。

(連載コラム「新風シリコンバレー」日経産業新聞 2014年7月29日)

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する