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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

来れ、世界に挑む若者よ! シリコンバレーは人材育成の出島

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私がインキュベーションした会社のひとつは、ベンチャー情報のデータベースを提供している。中核スタッフであるアナリストには、技術やビジネスの深い理解と分析スキルが求められる。そのアナリストの一員として2年前からインターンを採用している。インターンと言っても、毎月の給料は支払い、仕事の内容も他の社員と同等に扱う。週に何日か大学の講義に出席する以外は仕事上での差はない。これらのインターンは短期間のうちに見事に成長して、可能なら正社員として採用したいくらい会社に貢献している。

このインターンは、シンガポール国立大学(NUS)のシリコンバレープログラムから派遣された学生だ。毎年2回10-20人ほどの学生がNUSを休学してシリコンバレーにやって来る。1年間、スタンフォード大学の授業をいくつか受けながら、こちらのベンチャー企業で働く。NUSのシリコンバレー事務所が、アメリカでのビザ取得、インターン先の企業の発掘や紹介、大学との連携を行い、授業料などの費用はNUSが持つ。ただし、渡航、住居探しなどは自己責任。学生はシンガポールで授業の合間にいろいろなパートタイムの仕事をしてきた人が多い。それだけ、実践力が備わっているし、仕事に対する心構えがある。

NUSのインターンを採用したある日系のベンチャーキャピタリスト(VC)はこう語っている。「さすがにシンガポールでトップクラスの人材なのでとにかく理解力と馬力がすごい。英語はネイティブだし、兵役を終えてから来るせいか性格もタフでハングリー精神が旺盛だ。シリコンバレーでもすぐにコミュニティーに溶け込んでしまう。生き馬の目を抜くシリコンバレーで私のような新しいVCが生き残る上で、残念ながら日本からの人材は今のところ採用できない。」

シリコンバレーで何かとハンディが多い日本人だが、日本人の基本能力が低いわけではない。先日、日本のネット系企業に採用されてシリコンバレーに赴任した若い女性と話す機会があった。ソフトウェア開発技術を競うアメリカの大会で全国優勝したという。技術の世界では世界に勝負できる人材が日本から輩出している。足りないのは、シリコンバレーで経験を積む機会だ。

シリコンバレーでの短期教育プログラムは、実は日本人の手でも行われている。九州大学、鹿児島大学、慶応大学などは毎年学生をシリコンバレーに送りこみ、1ヶ月ほど日系企業で研修している。「人生やキャリアに対する考えが変わった」という学生が多くいるそうだ。

 大阪市ではシリコンバレー人材派遣プログラムを去年から実施している。シリコンバレーの滞在はたったの1週間であるが、事業アイデアをシリコンバレーで磨きをかけ、現地人の前で英語での発表させるところが特徴だ。英語での発表を最後までやりきることは、参加者が殻を破り、挑戦することの勇気を身につけることになる。既に、このプログラムがきっかけとなり、勤めていた企業を退職して起業した例が出てきている。

 このように短期間の研修には意義があるが、グローバルで通用するリーダーの育成にはNUSのような長期的なインターン制度も必要だ。その目的で来年から新たなプログラムがスタートする。シリコンバレーの中枢にあるサンタクララ大学の経営学部が主体となり、スタンフォード大学とも協力しながら日本からグローバル人材を育てる新プログラムだ。参加者は、1年間の間に起業やイノベーションに主眼を置いたビジネス分野での修士号取得を目指し、平行してシリコンバレーの現地企業でのインターンも勤める。「日本人総起業家」運動を提唱する山本一太科学技術担当大臣も賛同され、全面的に協力をいただくことになっている。シリコンバレーが人材育成の出島となる。

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