オルタナティブ・ブログ > めんじょうブログ―羊の皮をかぶった狼が吠える >

シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

ハッカソンが革新の場に

»

 2013年1月26日、私が「ものアプリハッカソン」と命名したイベントが、大阪市により開催された。これは、おそらく日本で初めての「ものづくり」とICTの融合をテーマにしたハッカソンだ。それ以来、大阪市が去年開設した大阪イノベーションハブでは、ハッカソンが毎月のように行われるようになった。

 そもそもハッカソンとは何か?これは、ハック(Hack)とマラソンを会わせた造語で、ソフトウェアエンジニアたちがチームを作って、数日間の短い間にソフトウェアのアイデアや技術を競い合う開発イベントのことだ。アメリカでは、10年ほど前からポピュラーになってきた。エンジニアのお祭り的なイベントを通じて、新しい発想を得たり、技術を磨いたりできるばかりでなく、いろいろなエンジニア同士の出会う場ともなっている。そこからベンチャー企業が立ち上がることも少なくない。例えば、テッククランチのハッカソンで出会ったチームはその後グループミーというメッセージサービスの会社を立ち上げ、1年後にスカイプに8500万ドルで買収された。また、特定の企業が技術プラットフォームを提供し、その上でのソフトの開発を競う形態も盛んだ。フェースブックの「いいね」ボタンも同社の開催したハッカソンで誕生した機能だという。

 ハッカソンでは、数日の短期間でソフトを創作し、最後に内容をプレゼンテーションして優勝者が選ばれる。共通の場に集まった参加者たちは、チームを組んでアイデアを出し合い、チームワークをもって徹夜で開発作業する。ハッカソンでいい成果を出す鍵は、バランスよい参加者の構成と、チームの創造性が引き出せる指導者だ。ソフトウェアのエンジニアだけでなく、UI(ユーザーインターフェース)の専門家やサービスデザインに長けた人材を揃え、チーム内での創造的な議論を巧みに誘発するメンターが加わることでハッカソンは素晴らしいイノベーションの場となる。そこには、イノベーションを促進するヒントが詰まっている。

 このようなハッカソンの運営を請け負う会社も出てきた。ハッカー・リーグは、2011年以来460件のハッカソンを運営している。去年、この会社を半導体メーカーのインテルが買収した。半導体を普及させるために素晴らしいソフトウェアの創造を促進させようというわけだ。

 日本でもハッカソンが普及する兆しがある。大阪市でも冒頭で紹介した「ものアプリハッカソン」から火がつき、それ以降盛んにハッカソンが行われるようになった。グーグルのようなネット系企業によるハッカソンからオープンデータのような公共データを題材にしたハッカソンまでテーマは多岐にわたる。特筆すべきは、「もの」を扱うハッカソンの盛り上がりようだ。目に見えるハードウェアがITにより価値を増幅していくところが、日本人には特に響くのかもしれない。これからは、ITと「もの」が融合していく時代であり、このような境界領域のイノベーションを誘発していくのにハッカソンは大きな力となることは間違いない。ハードウェアの世界もソフトウェアのようにオープンソース化やモジュール化が進みつつある。ソフトウェアの世界で培われた短期間での開発文化がハードウェアにも影響してきた。日本のものづくりを進化させる上でハッカソンは重要なツールとなるのではなかろうか。

 「ものアプリハッカソン」でハードやソフトの人材が出会い創業されたモフは、インターネットサービスとウェアラブル(身につけるハードウェア)を組み合わせた新しいタイプのおもちゃを開発している。さらに、ハッカソンに個人として参加した大企業のエンジニアが上司を説得して企業スポンサーのハッカソンを開催する、という予期せぬ成果も出てきた。企業内の議論だけでは出て来ないような自由な発想のアプリケーションが、外部の人間によりたった2日のハッカソンで提示されたことは大企業内のエンジニアにとって衝撃だったそうだ。パナソニックやシャープでは、自社開発を補完する試みとしてハッカソンの継続を真剣に検討していると聞いている。

 シリコンバレーでも、ハードとソフトの境界領域のハッカソンが増えそうな勢いだ。今後、ハッカソンがオープンイノベーションの手法としてさらに拡大していくことは間違いないだろう。

(日経産業新聞 2014/2/18)

Comment(0)