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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

先端ベンチャー企業からの情報を生かせ

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 シリコンバレーに居を移して22年になる。日本の「失われた20年」の間に、シリコンバレーから懸命に風を吹かせようとしてきた。最近になって若い世代にそのような機運が出てきたことは大変心強い。若い人たちにバトンタッチする意味でも、ベテランの私だから見えるシリコンバレーからの示唆をお伝えしたいと思う。

 シリコンバレーは多くの新産業を輩出してきた。半導体やパソコンなどのデジタル革命を経て、その後インターネットが世界を変えていった。これからの10年は、モバイルやクラウドのインフラがすべての産業に変化を及ぼす時代だ。今回が以前と違うのは、IT(情報技術)業界だけの興味ではないことだ。

 流通を根底から変えるO2O(オンライン・ツー・オフライン)、新エネルギーを取り扱うためのITシステム、患者中心の医療システム、ものづくりとソフトウェアが融合してもたらされる「メーカーズ革命」。キーワードはITによる「スマート化」だ。

 シリコンバレーは、「スマート化」の技術やビジネスデザインのメッカだ。ここに世界中の俊英が集まり「スマート化」でしのぎを削っている。これら「スマート系」ベンチャー企業の50%以上には、創業者に外国人や移民がいる。これらの人たちから出身母国に情報やノウハウが盛んに流れている。

 一方、日本は蚊帳の外だ。今こそシリコンバレーを利用する方法を真剣に考えなければいけない。

 最近のシリコンバレーの最大の変化は「リーンスタートアップ」による事業立ち上げの革命的な進化だろう。オープンソースソフトウェアやクラウドサービスの普及により、自社のコンピュータ環境はパソコンで十分となり、ソフトウェア開発も出来合いのモジュール(部品)の組み合わせで素早くできるようになった。

 ソフトウェア開発やサービス構築のコストは2桁ほど安く、開発人員は1桁少なく、開発期間は数分の一に短縮された。その結果、おびただしい数のアイデアが検討され、素早く製品・サービスが開発され、市場からは素早くフィードバックが得られるようになっている。

 以前は、特定の事業分野で10社程度の企業を何年にもわたってフォローしていればトレンドに遅れずにいられた。ところが最近では、同じ分野で数百社単位の新しい企業やプロジェクトが発生し、それが数ヶ月単位で変化していく。今までのような態度でシリコンバレーと関わっていてはトレンドに取り残されてしまうのだ。

 逆に、多数のベンチャーを分析し、事業モデルの仮説・検証のサイクルを多く見聞きすることができれば誰にでもトレンドが見えるようになる。シリコンバレーでベンチャーに関わる人は数万人を超えると言われているが、かれらを巨大な開発研究機関と位置づければ一種の集合知をもたらす。産業の未来予測が天才でなくてもある程度予想できるようになったのだ。

 例えば、2年ほど前にシリコンバレーでささやかれ始めた「ソーシャル・コマース」の例を見てみよう。まだ表に出ていないものも含めて関連ベンチャー企業は100社を超えていた。ベンチャーキャピタル(VC)とのネットワークを駆使して情報を集め、個々のベンチャー企業の事業内容を詳しく調べた。その結果、ソーシャル時代の新しい購買モデルのトレンドが明らかになり事業創造のアイデアを多く得ることができた。

 このように、シリコンバレーで続々と誕生する最先端ベンチャー企業の情報を集合知として捉え、分析することによって事業・産業トレンドを導き出すことができる。もともと情報でハンディを追っている日本は、今こそシリコンバレーを新しい目で見直すべきだ。

(日経産業新聞 2013.10.28)

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