イノベーションと震災
企業組織では痛みを伴うイノベーションに抵抗を示すことが多いが、今回の震災で、「人災」と「イノベーションへの抵抗」の症状は共通だと感じた。
症状①:『今自分でできる範囲のこと以外は思考から排除する。』
企業に新しいアイデアを提案すると、できない理由をたくさん挙げる人が多い。
去年、産総研の研究者が、1000年に一度の大地震と大津波の可能性を地質調査で明らかにした。しかし、政府、自治体、東電はそれを無視した。それを認めても、対策を実行できないと考えたからだ。
地震発生からすぐに原発から40キロまで放射能の拡散範囲が及ぶことを政府の放射能監視システムが示した。しかし、政府はそれを公表せず、その日の非難指示は10キロ圏内とした。政府が「輸送手段や受け入れ先を確保するのは無理」と判断したからだ。
症状②:『リーダーが自分の手を汚さず、部下に丸投げして、責任を取らない。』
企業トップが、革新的な事業案を自分の頭で考えず、判断を現場に任せてしまうことが多い。企業トップの後押しのない現場に革新的な案を推す勇気は出ない。
震災後、自主的に野菜を検査した農家があり、低濃度の放射能が検出された。政府に問い合わせたところ、「危険だと思ったら、自主回収してください」という責任のがれの返事だったそうだ。農家は、必要のない回収をすれば大損害、回収しないで後で批判されれば事業継続さえ危い、という苦境に立たされた。
症状③:『今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫だ。』
昨日まで優良企業だったから明日も優良企業だという保証はないが、安定成長に慣れてきた経営幹部や従業員たちはその安定が明日も続くと思っている。だから、いざ市場が急激に変化した時に対応できない。
原発は、他のシステムと比べ物にならないくらい安全性が高い。しかし、決して100%ではない。ところが、原子力政策上の理由から「100%安全」と言い続けるうちに、いつしか「過去40年も安全だったから、これからも100%安全に違いない」と思うようになった。100%安全と考えた瞬間、「壊れた」時の対策を考える思考力が停止する。それが、災害時の安全対策プランの手抜かりをもたらした。
日本企業のリーダーシップ不在がイノベーションのブレーキになっている状況と、天災後のリーダーシップ不在で引き起こされた「人災」の原因は、共通している。企業変革や被災地の復興を、日本人の得意な現場の頑張りだけで推し進めるのは間違いだ。今ほど強いリーダーが求められている時はない。