日本発のケースを集めた本が出版されました:「ケース・スタディ 日本企業事例集」の内容を紹介します(後半その2)
引き続きまして、「ケース・スタディ 日本企業事例集」(ダイヤモンド社)に収録されている10個のケースの最後の二つ、プロダクション・アイジーと稲盛和夫のケースをご紹介。
9. プロダクション・アイジー:アニメというビジネス
日本のアニメは非常に優れている。でもその制作現場で働く人たちといえば、過酷な労働環境で、生活ができるがどうかのぎりぎりの給料...日本では最大のアニメ制作会社東映も、ディズニーの300分の一程度の売上しかない。それは配給側が著作権を握り、どんなに作品が売れようと制作側にはお金がいかない仕組みだったから。アニメを作る人たちが正当に評価されるようにしてきたい。プロダクション・アイジーの石川光久社長はそんな思いに基づき、作品に投資し、著作権を握り、興業成績に応じた報酬を得られるようにした。リスクも負うがリターンも得る。下請けからの脱却、だ。
ケースは2006年、同様のビジネスモデルが少しずつ増えていく中で、プロダクション・アイジーは今後どうしていくべきか、という質問の投げかけで終わる。日本のアニメ映画の制作過程や様々なプレーヤーのかかわり方などの説明もあり、とてもおもしろい。
10. 日本の起業家:稲盛和夫
JALの再建へ名乗りを上げ、日々奮闘中の稲盛和夫氏のケース。執筆者のアンソニー・メイヨー教授は、アメリカのビジネスリーダー1000人を、彼らがどのように時代の文脈を読み舵取りをしたか、という観点から分析を行うという、リサーチプロジェクトを行った経験があり、それを元にしたリーダーシップのクラスを教えている。アメリカのリーダーだけでは片手落ちなので、日本で誰かいないか、という依頼を受け、決まったのが稲盛氏。
京セラを売上1兆円を超える企業にしたというだけでも十分にすごいけど、実は彼はもう一つ企業を設立している。通信が自由化された際にNTTへの対抗馬として設立されたDDIだ。今のKDDI。京セラとKDDIを合わせると売上4兆円を超える事業の生みの親、というわけ。ケースでは、幼少期からの稲盛氏の人生を綴り、また彼の経営の根幹中核にある「フィロソフィ」について特に詳しく描いている。メイヨーはこれまで2回このケースを教えているが、彼によると、フィロソフィに基づく経営について、2回とも授業中アツイ議論が繰り広げられるらしい。
稲盛氏にはケース作成時の2007年に3度ほどお会いさせていただき(といっても、私ははじっこにちょこんと座っていただけだけど)、それからつい先日別件でインタビューをさせていただいた。2007年は、もはや悟りを開かれた上人のようなたたずまいだったけど、先日お会いした際は、すっかりビジネスリーダーの顔、もしかしてJALも何とかしてしまうかもしれない、と思わせる迫力に満ちてた。カリスマがゆえに彼に関してはそりゃいろいろな意見があるけど、とにかくハンパなくすごい人だ。このケースプロジェクトに関われて、本当に幸運でした。
こんな感じで10個のケースが並ぶ。内容が詰まっているし、そもそも考えさせる教材なので、さらっと読めるような仕立てにはなってないけど、でも少しでもご興味がわいたらお手にとっていただけるとうれしいです。