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ハーバードビジネススクールの日本スタッフとして働く中で、気づいたこと、感じたこと、考えたことを、ゆるゆるとつづります。

日本発のケースを集めた本が出版されました:「ケース・スタディ 日本企業事例集」の内容を紹介します(後半その1)

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 「ケース・スタディ 日本企業事例集」(ダイヤモンド社)に収録されている10個のケースのうち、ドコモ、楽天、旭硝子のケースをご紹介。

 

6.NTTドコモ:モバイルFeliCa

アメリカと比較すると、日本は圧倒的に現金社会。アメリカに行くと、私もスタバのコーヒーでもクレジットカードで買ったりするが、日本だと最低でも3000円ぐらいじゃないとカードが出しづらい雰囲気があるような気がする。そんな現金社会で、花開いたのが、e-Money。小銭をいちいち出すのが面倒だからカードでピッで済ませる。立ち上がりは時間がかかったが、Suicaの普及で一気に広がり、今はあちこちでシャリーンとe-Moneyで決済している音が聞こえる。

それと、どんどん高機能化する携帯とが合わさって生まれたのがドコモのモバイルFeliCa、いわゆる「お財布ケータイ」だ。音声やデータ通信を超えて、より携帯が「生活のインフラ」、すなわち日常生活のあらゆる場面において携帯が使われるようにということで、開始されたサービス。確かに便利だけどユーザーが「お財布」を落としたらどうするのか、これをもとにさらにクレジットカードなどの金融ビジネスまで手を広げていくのか、そんなドコモの当時の悩みを描いている。

 

7. 楽天:Eコマース事業の創造

インターネット上のショッピングモール「楽天市場」をコアとしてぐいぐいと成長し、今や一大企業に成長した三木谷浩史社長(ちなみにHBSの卒業生でもある)が率いる楽天。アメリカではヤフー、アマゾンやグーグルなど、ITベンチャーがこの10年で巨大なグローバル企業になっている例がいくつかあるが、日本のITベンチャーは成功はしていても、そこまで大きくなっていないものがほとんど。その中で、今のところの唯一の例外が、楽天だ。自社の事業拡大と積極的な買収で、現在の売上は約3000億円。中国、アメリカに続き、ヨーロッパへの進出への決意も表明した。ケース作成当時の6年前は、まだ売り上げは181億円で、海外展開なしだったことを思うと、驚異的な飛躍である。

規模こそ違うが、事業の核は創業当時から変わらない。事業者(お店)への手厚いサポートを行うことで、楽天市場のお店の質と量を高め、それによりユーザー(買い物客)を引きつけ、それがさらに多くのお店が楽天市場に出店し、客数が増え...というビジネスモデルだ。楽天は黒子として、市場の環境整備に徹する。この楽天市場に集うユーザー基盤を活かし、買収も行いつつ、トラベル、ゴルフ場予約、証券、と、事業を横展開する。確固たるコアと、失敗をおそれない新事業への挑戦とが、楽天の強みなんだと思う。今後は社内公用語を英語にする、なんて話も聞こえてくる。がんばってほしいな。

 

8. 旭硝子:EVAの導入

硝子事業へのなじみのなさと、財務的なものにめっきり弱い性格のために、何度読んでもこのケースはいまいち完全には理解できなかったのだけれど、一つだけわかったことがある。岩崎弥太郎の甥、岩崎俊弥が創設した1世紀の歴史を持つ旭硝子という会社は、非常にグローバルで、先進的な経営手法を導入している、ということだ。ケース作成2003年当時、従業員の70%は日本以外、海外売上は日本での売上に迫りつつあった。1998年に社長に就任した石津進也社長のもと、真のグローバル企業になるべく、コーポレートガバナンスの改革や、日本偏重の仕組みの是正などを行う。

その一つがEVA(経済付加価値)をベースにした資源配分や管理職以上の業績評価である...その何たるかも含め、詳しくはケースを読んでいただければ(笑)幸いだが、要は、事業や事業の責任者は、株主価値の向上への貢献度合いに応じて評価される、という仕組みだ。ケースではその詳細と、導入した上での難しさが描かれる。

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