ソニーエリクソンの挑戦(番外編)~厚さ9.4mmのスリムなウォークマン携帯『W880』発売。デザイン・設計は日本
英ソニー・エリクソンは、2月6日午前、ウォークマン携帯電話、サイバーショット携帯電話などの新製品を発表した。中でも注目は、厚さ9.4mmのスリムなウォークマン携帯電話『W880』。日本以外のアジア・欧州向けのW-CDMA/GSM900/1800/1900MHz対応端末で、デザイン・設計は日本、システムなどプラットフォームはスウェーデンで開発されたものを採用した国際的なコラボレーションによる新しいウォークマン携帯だ。発表と同時に発売という「iPod方式」を採用、すでに量産体制に入っているという。細かいスペックなどは、こちらをご覧ください。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0702/07/news023.html
また、ウォークマン携帯では2005年8月の発売以来、累計で2000万台を突破。また、サイバーショット携帯も、2006年6月の発売以来、累計で450万台を達したことも明らかにされた。
この記者発表会は、ロンドンのホテルで開かれたのですが、この会場には、ソニーエリクソンの日本法人で『W880』の開発を指揮したSven Jagebro(スヴェン・ヤゲブロ)プロダクト・プランニング・チームリーダもいらっしゃいました。以前から、日本法人の様子を語ってくれる人を探していたことあり、その場でインタビューをさせていただきました。
スヴェン・ヤゲブロ氏に聞く (2007年2月6日、ロンドンのホテルにて)
--日本に来る前は?
もともとはエリクソンで、固定回線網によるブーロドバンド・ネットワークの仕事に携わっていました。その後、ソニーエリクソンへ移り、スウェーデンで3年間働きました。東京に来たのは、2005年11月のことで、もう15カ月になります。
--日本に来ることが決まったとき、どう思いましたか?
グレート(素晴らしい)! 私は、ソニーエリクソンに入社して以来、『Z1010』や『V800』など、いろいろな3G端末にかかわってきました。そして、日本ではFOMA端末が発売されるようになり、日本市場の動向を調べるために、何度も日本にくるようになっていました。ですから日本に転勤になる前から、日本のことはよく知っていました。日本は、消費者向けエレクトロニクスの大国です。日本文化も素晴らしい。
--日本のスタッフとは、何語で話しますか?
英語です。会社の共通言語が英語ですので。
--日本のスタッフも、全員英語を話すのですか。
全員が英語を話すわけではありません。でも、彼らは、とても「勇敢」です(笑)。日本に来た時に予想していた以上に、日本人のスタッフとはうまく行っています。
--日本での仕事の内容は?
私が日本に来た当時、ソニーエリクソンの日本法人は、日本のスタンダードにあわせた携帯電話を作ることに専念していました。日本の携帯電話キャリアの要求する仕様や、日本のマーケットは、グローバルなものと、とても異なっていました。私の仕事は、基本的には、グローバル・マーケットの知識を、日本の開発チームに伝えることにあります。日本のエンジニアの能力を引き出して、グローバル・マーケットに最適な商品を作ることが狙いです。日本のユーザーが求める携帯電話は、グローバルな機種とは、少し違います。私たちは、グローバルな消費者が求めるものは、何であるかを話し合い、必要とされる製品を作り上げることをめざしています。
--グローバル・マーケットの知識を、日本の開発者に伝えるだけですか?
その反対のケースもありますが、メインとなるのは、グローバルな知識を日本の開発部隊に伝え、それに沿った製品作りをすることにあります。私と、私の同僚は、「我々は何をすべきか」を考えますが、日本のエンジニアたちは「どのように実現するか」を考えています。
--今日発表されたウォークマン携帯『W880』は日本で設計・デザインされたのですね。
デザイナーは日本人、メイン・プロジェクト・マネージャーも日本人、プロダクト・マネージャーがカナダ人。しかし、彼は日本に12年も暮らしているので、ほとんど日本人です(笑)。また、技術者のリーダーも日本人、研究・開発も日本人。私以外は、主要スタッフは、ほとんど日本人です。
--日本にいて、グローバル・マーケット向けの携帯電話を作るのは大変だと思うのですが。
技術者の多くは、ソニーエリクソンが設立される前は、ソニーのドイツ・ミュンヘンにあった開発拠点にいました。彼らは、グローバル・マーケット向けの携帯電話を開発した経験は豊富です。もちろん、私が、日本にきたのは、彼らをサポートするためです。
--『W880』のようなスリムな携帯電話は誰のアイデアですか?
誰のアイデア、というわけではありません。モトローラの『RZAR』のような、スリムな携帯電話は、すでに人気を博しており、他の会社もスリムな携帯電話を開発しています。私たちのエンジニア・チームは、そうした製品を作りたいと思いました。そして、彼らは、熱心に取り組んで、ある日、とても小さいプラスチックのケースを持ってきて、「この大きさの携帯電話を作りたい」と言ったのです。私たちは、議論をかさね、開発のゴーサインを出し、何が必要かの詳細について検討を始めました。『W880』の開発について、もっとも重要な要素は、表側のステンレスの部分です。手触りと見た目に、高級感が得られます。また、ボディに強さをもたらします。さらに、外見も重要です。外見が優れていないと、ユーザーの関心が弱くなってしまうからです。『W880』は、東京にいるエンジニアやデザイナーたちが、できることを示した結果であり、誰か特定の人物ののアイデアというわけではありません。
--何か衝突したとか、議論があったとかありますか。
「働く時間」(笑)。これは、ヨーロッパと日本では、とても違います。日本人は、とても長時間仕事をします。また、職場の人たちが、みな熱心に仕事に関わろうとします。そして、みんなで力をあわせます。私は、日本人と働くことが、他の文化の人と働くよりも、もっと難しいとは思いません。私は、ただ、日本人の文化がどのようなものか理解して、それに適合するように努力をしています。
スウェーデンにも、日本から来て仕事をしている人はたくさんいます。ソニーエリクソンは、ジョイント・ベンチャーですので、日本とスウェーデンの間で、人材の交流を進めています。こうすることで、双方の文化を理解し、そうすることで、より早く成長できると思っています。なぜなら、私たちは、携帯電話の先進的なマーケットである日本と、巨大なマーケットであるヨーロッパの両方を理解できるようになるからです。
--日本人は、よく働きますか?
日本のエンジニアが、一生懸命働かない時なんてありますか(笑)?
--長時間働きますね。
私は、他の人より長くは働きません(笑)。日本の文化では、休みもとらずに、一生懸命仕事をするのが普通です。どちらの文化が正しいか、というつもりはありません。しかし、あまり長時間会社にいると、他の人や社会と接する機会が減って、マーケットのトレンドがわからなくなってしまいます。この点では、ソニーエリクソンはバランスがとれていると思います。ヨーロッパのマーケット動向を理解し、それを日本で確実に実行する、と。もちろん、スウェーデンの開発拠点ルンドでも、サイバーショット携帯『K800』といった優れた携帯電話も開発しています。両方の文化をバランス良く持つことは、ソニーエリクソンにとっても良いことだと思います。
--『W880』のほかに、日本で開発されたグローバル・モデルはありますか?
『S700』。これは、日本の『SO505i』と同じ回転式の携帯電話です。また、同じく回転式のウォークマン携帯電話『W900』があります。このほか、カメラ付き『K610』もそうです。これらの携帯電話は、機能や性能で、先端をいくものとなっています。最先端の技術を、グローバル・マーケットに提供することをめざしています。『W880』で言えば、スリムさということになります。
--反対に、グローバル・モデルで日本に導入したというものはありますか?
それには、『V800』があります。日本では『V820SE』としてボーダフォンから発売されました。しかし、ユーザー・インターフェースや使いやすさが、日本人にはあいませんでした。この反省から、私たちは、グローバル・モデルを、日本市場向けに発売することに対して、とても慎重になっています。ですから、日本人にとっての使いやすさが、私たちの期待するレベルに到達するまでは、グローバル・モデルの日本市場への投入は、とても難しい状況です。
--ソニーとの交流はありますか?
普段からコンタクトをとる機会はとても多いです。一年ほど前ですか、ストリンガーCEOが、ソニーエリクソンを訪問して、「携帯電話は、ポータブル音楽プレイヤー市場において重要な商品だから、頑張って欲しい」と言われました。ソニーも、ウォークマンはじめ、音楽関連の商品がありますので、両社ともに、盛り上がっていければいいと思います。