オルタナティブ・ブログ > 古参技術屋の見聞考察備忘録 >

アジャイルや機械学習、リーンシックスシグマなど、日々の仕事の中で見て聞いて感じた事を書き留めています。

SAFe 導入、最初の1年を振り返って(2/2)

»

僕が所属する製品開発部がSAFe(Scaled Agile Framework)を導入してからちょうど丸1年が過ぎました。300人以上の部員たちが一斉にその新しい製品開発フレームワークに乗り換えるという一大イベントは、良い面と悪い面、期待と混乱、建前と本音、規範と泥臭い衝突など、そのすべてが僕の30年近い製品開発歴の中で、もっとも興味深い"変化"の経験となりました。その新鮮な体験が色あせてしまう前に、備忘録とし2回に分けてここに残しておきたいと思います。これはその第2回目です。第1回目はこちらをご覧ください。SAFe.PNG

引用: https://www.scaledagileframework.com/#

4. SAFe導入コスト

SAFeは様々なトレーニングを提供しています。例えば、

  • Leading SAFe
  • Implementing SAFe
  • SAFe fro Teams
  • SAFe Scrum Master
  • SAFe Advanced Scrum Master
  • SAFe Release Train Engineer
  • SAFe Product Owner / Product Manager
  • SAFe DevOps

トレーニングの種類に応じて金額が違うので一概には言えませんが、仮に一人15万円のトレーニングを300人が受けたら、その総額がいくらになるかは想像できるのではないでしょうか。

またSAFeには10週間に一度、PI(Program Increment)プランニングという、全員が参加する 2日間に渡る大きなミーティングがあります。この1年間に、そのPIプランニングが5回ありました。PIプランニングのたびに各地に散らばっているチーム員は旅費と宿泊代をかけて一か所に集まらなければなりませんでした。中には海外から参加しているチーム員もいました。SAFeは導入時だけではなく、運用にもかなりの費用が必要でした。SAFe Iteration.PNG

引用: https://www.scaledagileframework.com/program-increment/

また契約したSAFeのエキスパートであるコンサルタントの費用もかなり高額でした。

5. SAFeのオーバヘッド

直接価値を生み出す原動力になっているのは、もちろん開発エンジニアです。しかしSAFeには開発エンジニア以外に、直接価値を生まないオーバーヘッドの存在がとても多い(必要)と思いました。例えば必要な役割として、SAFeには以下のようなオーバーヘッドが存在します。

  • スクラムマネジャー
  • プロダクト・オーナー
  • プロダクト・マネジャー
  • リリース・トレイン・エンジニア
  • システム・アーキテクト
  • ビジネス・オーナー
  • SAFeプログラム・コンサルタント
  • ソリューション・トレイン・エンジニア
  • ソリューション・マネジャー
  • ソリューション・アーキテクト
  • エピック・オーナー
  • ポートフォリオ・マネジャー
  • エンタープライズ・アーキテクト

SAFeはそれらの役割と責任をはっきりと定めているのですが、実際はその新しい役割が、SAFeを導入する以前の(従来の)役割の上に与えられたために、しばらくの間混乱が生じました。誰が、どんな責任を持つのか、それがはっきりしなくなってしまったのです。皆が自分の役割と責任を理解し、SAFeの歯車が上手く噛み合うまで、人間臭く、時には感情的な衝突もありました。

6. SAFe導入ツール

SAFeに使えるソフトウェア・ツールは色々と市場に出回っているようです(例えばJiraなど)。しかし面白いことに、Scaled Agile, Inc. は推奨ソフトウェアについては一切言及していません。色々なソフトウェアが開発されて市場に出回るように、特定のソフトウェアを推奨しない方針のようです。

そこで僕が所属する部署は、LeanKitを使ってカンバンを作りました。SAFeではポートフォリオ、プログラム、チーム、オブジェクト、依存関係、リスクなど、多くのカンバンが必要になりますが、それらをすべてLeanKitで構築しました。

またそれらのカンバンからデータをダウンロードして、Rで処理し、様々な数値情報を表示するシステムを構築しました。

とにかくSAFeは必要とするカンバンの種類と数が多過ぎます。そのためカンバンを専門に管理する役割が必要になってきました。RTE(Release Train Engineer)はその中心的な役割ですが、僕を含め、多くのサポートが必要でした。

7. SAFe導入効果 1: 開発納期の短縮

Scaled Agile, Inc.は「30%から75%開発納期を短縮」した実績があると言っています。それがソフトウェア開発だけの場合なら恐らく可能でしょう。ただ僕が所属する部署はハードウェア開発が半分を占めており、プロトタイプの制作など物理的に納期短縮が不可能な要素がかなりあったため、30%の納期短縮が限度ではないかと思いました。SAFe Business Result.PNG

引用: https://www.scaledagileframework.com/about/

8. SAFe導入効果 2: 品質の向上

Scaled Agile, Inc.は「25%から75%品質が向上」した実績があると言っています。どのように品質を評価したのかは定かではありませんが、SAFeが定めるアジャイル、つまり2週間に一度の簡単な製品評価デモ、10週間に一度の本格的な製品評価デモを行えば、製品開発段階から品質を組み込んでいけるのではないかと思いました(ソフトウェア開発の場合)。

しかしハードウェア開発の場合、2週間に一度の製品評価デモは現実的ではありませんでした(ものによっては10週間に一度のデモも難しい)。ハードウェアの品質に関しては、従来の品質とあまり変わらないのではないか、というのが僕の率直な意見です。

9. SAFe導入効果 3: 生産性の向上

Scaled Agile, Inc.は「20%から50%生産性が向上」した実績があると言っています。SAFeを導入してから部門間の調整(スケジュールや仕様などの依存関係)の負担(遅れも含め)が著しく減ったため、生産性が向上したことが体験できました。仮に生産性 = 生成物の価値 / 投入した労働力と定義すれば、50%の向上は無理としても、20%の向上は達成できたのではないかと思います。

10. SAFe導入効果 4: 貢献度の向上

Scaled Agile, Inc.は「10%から50%貢献度が向上」した実績があると言っています。貢献度をどのように定義したのかは定かではありませんが、貢献度が生産性と同じように定義できるのであれば、SAFeによって10週間を単位とした一つの定められた目標に向かって、部員全員が一丸となって貢献したことによって、無駄な作業が確実に減りました。

また SAFeでは、個々の部員が与えられた目標に対してその達成を公約します。目標の達成を公約することで、チームレベルだけではなく、個々の部員レベルでの貢献度が明確になったと思います。

11. SAFe導入効果 5: 開発実行管理の変化

SAFeが定める新しい役割とその名称、毎日のDSU(Daily Standup)ミーティング、1週間に2度のSync (同期)ミーティング、2週間に一度のスケジュールの調整と目標達成の公約、10週間に一度の大きな計画と目標の設定など、SAFe を導入してからは、まったく新しいマネジメント方式へと変わりました。そのため、これまでのマネジメント方式に慣れていたプロジェクト・マネジャー達からの反感や抵抗はかなり強いものでした。

SAFeによってミーティングの数が変化したとは思えませんでした。むしろ増えたかもしれません。しかし従来とは異なり、定期的なミーティングになりました。従来は問題が起こるたびに勃発的にミーティングが開かれていたので、それに比べれば良くなったかもしれません。

12. SAFe導入効果 6: 透明度の向上

SAFe導入の効果の中で、これが一番大きなものだったと思います。それまでは他のチームが何をやっているのか良く分かりませんでしたが、Sync(同期)ミーティングや PI(Program Iteration)プランニングのおかげで、すべてのチームが一つのところで話し合える機会が格段に増え、意思疎通や意思決定の面で透明度の向上が図れました。

この透明度の向上は、開発納期の短縮、品質の向上、生産性の向上など、すべての面でプラスに働いたと思います。

13. SAFe導入効果 7: イノベーション

10週間のPI(Program Increment)の最後の2週間を、SAFeはIP(Innovation and Planning)だけに充てています。つまり開発業務を行うのは最初の8週間だけで、最後の2週間は、開発業務とは関係のない、普段できないようなことのために自由に時間を使うことができます。しかし実際は開発業務に追われ、進捗の遅れを取り戻すために2週間のIPは使われてしまい、次のイノベーションのために時間を使うことはほとんどできませんでした。

最初の1年を振り返った結論

大きな製品やサービスのリリースが遅れた場合、その機会損失(Cost of Delay)は毎月数億円にも達するでしょう。その機会損失に比べれば、いくらSAFe 導入に億単位の費用がかかったとしても、決して高くはないでしょう。むしろリスクが減る分、期待利益(機会利益)が大きくなるのではないでしょうか。

またこの1年、企業トップの決断とリーダーシップがあれば、社員はどんな変化にもついてくることを目の当たりにしました。SAFeの効果は金銭的なことばかりではなく、むしろ「組織を成長させる」という人間的な面がかなり大きかったように思えました。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する