システムの保守契約
IT関連やゴルフ練習場関連のシステムを提供する立場の仕事をしていると、「売ったらおしまい」ではなく「運用し続けられること」が大事だということは当たり前のことです。そのために「サポート契約」や「保守契約」という、要するに「何かあっても面倒をみます」という契約をすることがシステム提供では求められます。「しっかりしたサポートを提供できるかどうか」はシステム選定でも重要なポイントになります。運用者が自ら対処できるのであればフリーソフトを選択したりすることもできますが、多くの場合はやっぱり「専門家に任せる」ことを選ぶと思います。
私は元々自社のソフトウェア開発を担当してきて受託開発からソフトウェア製品の開発販売へと事業を発展させてきましたが、ゴルフ練習場関連システムにはあまり直接関与せず、ソフトウェア部分のみ自分のチームのメンバーが対応して提供していた感じでした。2015年の夏にゴルフ練習場システムの保守関連でお客様と揉めて、これは何とかしなければと考えて深く関わるようになりました。
ゴルフ練習場のシステムは時代と共にかなり変化してきています。練習場がきめ細かいサービスを行うとともに、様々な分析を行って練習場経営に役立てるために、どんどんIT化が進みました。ICカードで顧客の金銭管理や特典管理を行うようになり、コンピューターが止まったら営業できなくなるばかりか、データが消えたら顧客のお金に関する情報も失ってしまうのです。機械関連も当然使えば消耗する部分もありますが、それ以上にコンピューターシステムの可用性は重要という時代になりました。システムのサポートなしでは練習場経営は無理な時代なのです。IT関連ではシステムの保守契約は当たり前でしたが、ゴルフ練習場システムではまだまだ機械が中心という考えが強かったため、「調子が悪くなったら修理を頼むから」という意識が強く、「調子が悪くないのに毎月保守費を払うのはおかしい」と言われたものです。
我々のゴルフ練習場システムを提供する際には、必ずリモートメンテナンスできるようにVPNを各練習場と接続し、現場に駆けつけなくてもほとんどのことは遠隔で即時対応できる環境を構築・維持していますし、大切なデータは2重化はもちろん、記憶装置も定期的に片方ずつ交換したり、さらに外部バックアップも毎日取るようにシステム化してあります。もちろん機械に関するサポートも含みますが、この体制を維持しつつ、ソフトウェアのアップデートも含めたサポートを提供するために保守契約を結んでいただき、保守費をいただくことにしています。機械だけなら壊れたときに都度見積もって対応でも間に合うかもしれませんが、コンピューターシステムは可能な限りの即時対応ができないと練習場全体の営業が止まってしまう可能性もありますし、データは消えてからでは手遅れです。
保守関連で揉めてしまったお客様を真夏の猛暑の中、3回訪問して、お客様の不満を全て伺い、自社の説明不足をお詫びし、保守契約の意義と重要性を納得いただけるまで説明し、保守契約を締結いただけました。その後も信用いただけるまで私が窓口を自ら務めましたし、遠方でしたができるだけ訪問して心を通わせることを続け、今では練習場スタッフのみの慰労コンペにも呼んでいただけるくらいの関係になれました。
そのお客様以外からも自社に対する不満の声はたくさん聞いていましたので、順次私が訪問し、信用していただくと共に保守契約も締結いただき、今ではコンピューターで顧客管理をしている練習場様の保守契約締結率は100%です。それとともに、自社に対する悪口も減り、採用いただいた練習場様からの良い評判が増え、新しい商談もどんどん決まるようになりました。いくら機械やソフトウェアが良くても、練習場システムはとても複雑で大きなシステムです。しっかりしたサポートがなければ安心した練習場経営はできないのです。しっかりしたサポートを提供してきたから練習場業界での良い評判が増え、それならと選んでもらえるようになったのです。
実は2015年の時点では自社の練習場向けシステムのことはあまり分かっておらず、ゴルフ自体もほとんどやっていなかったため、不満を伺っても即答できないことばかりでしたし、ゴルフの話題にも全くついていけない状態でした。さすがにこれではまずいと考えて、自らゴルフに行く機会を増やし、レッスンも受けてみたり、ドラコン競技に参加してみたりして、練習場主催のイベントにも迷惑をかけずに参加できるくらいにはゴルフの経験も積み、ゴルファーの気持ちも理解した上でのシステム提供のあり方を考えられるようになりました。多くの練習場の経営者や支配人との交流も深まり、練習場経営で悩むポイントや解決策なども伺うことができ、練習場経営の知識も増え、こちらから情報提供できるものも増えました。同業者の横のつながりもどんどんできてきました。
もともとプログラマーだった私が全く分野の違う仕事に5年間取り組んで、まあ、よくここまで来たものだと我ながら感心しているくらいですが、私がお客様との関係を修復しなければ、せっかく自社の技術者達が頑張って開発したり施工したりしてきたものが、業界から袋だたきにあうことになっていたでしょう。自分自身としてはプログラマーとして仕事ができるようになることより数倍険しい茨の道を歩んだ5年間だった気がします。その分得られたものも大きかったと感じていますが・・・。
システムを提供するという仕事は、「解決したい課題に気がつく」「作り上げる」「世に出し、知ってもらう」「信用して採用してもらう」「安心して運用して喜んでもらう」この全てがバランス良く揃わないと続かないのです。技術者は作ることばかり考えがちです。作れることも大事な能力ですが、それだけでは仕事として成立しません。作ることに関しては私以外のメンバー達でも十分できましたので、私は作ることに関しては任せて、お客様との信頼関係構築に集中しました。とはいえ、この5年間、ゴルフ練習場関連の仕事をしていただけではなく、IT製品関連の仕事も実にたくさんしてきました。自らプログラミングに関わる時間は断然減りましたが、そこは安心して任せられるメンバーに恵まれているので、ほぼ問題なかったどころか、私がプログラミングをしない方が様々な相談事にも対応できたので良かったくらいでしょう。
「最近ゴルフばかりして遊んでいるだけじゃん!」と感じていた人(そもそも私に興味などなかったと思いますが)もいるかもしれませんが、ゴルフを楽しんできたからゴルフ練習場向けシステムの仕事がうまくいくようになったのです。ゴルフ関係者と話をするのに、「ゴルフなんて興味ないんですよぉ〜」という態度で良い関係になれると思いますか?話をする相手と共感できることが多いほど良好なコミュニケーションがとれるのは当たり前のことです。
また、こういう話をすると、「仕事だったら就業時間に経費でやれ」と考える人も多い気がしますが、自分の時間やお金を全然使わないでゴルファーの気持ちが理解できるとは思えません。もちろん、直接仕事で役立ちそうなときには経費も使いますし、平日に仕事としてコンペに参加することもあります。でも、それだけでは浅いのです。 個人的にはゴルフ業界にはいろいろ言いたいこともあるのですが、そのためにももう少し自分がゴルファーとして一人前にならねばと考え、腕も磨かねばと思っているのでした。。