自社製品開発のポイント
不正接続対策製品「IntraGuardianシリーズ」や大規模向けDHCPサーバ「ProDHCP」を中心にIT製品の開発販売がIT関連売上の7割以上を占める状態までになり、結局10年近くかかりましたが、ほぼ事業を請負型から自社製品型に移行できたと考えています。やってみなければ分からないことばかりでしたが、やってみた今となってみれば「ここがポイントだったなぁ」というところが分かるようになった気もするので、少し書いてみます。
請負型から製品開発販売型にビジネスを移行する上で非常に難しいのが、請負型は毎月といかないまでも検収後にお金が入ってきます。しかし、製品は開発が完了しても売れなければ全く入ってきません。「開発期間中にお金をどうするのか」「売れはじめるまでにお金をどうするか」「本当に売れるのか」と、実に経営側としては悩ましい期間が続きます。いずれも私なり(というより、私たちなり)にどう乗り越えたかははっきり分かっているのですが、同じことはまず他社にはできないだろうと思うくらいの乗り越え方だと思いますので、このポイントを乗り越える自信がなければ移行は難しいということは間違いないと思います。
もう一つのポイントが、製品の良いアイディアが出て「技術的に製品化の目処をつけられるかどうか」が重要だと考えがちなのですが、実はそれよりも「製品として必要なUIを準備したり、マニュアルを書くなど、製品としての体裁を整える」方が大変な可能性も高いという点です。とくに私の会社のように、技術的に尖ったメンバーが何人もいる状態ですと、技術的に目処をつけるのは意外と凄いパワーで進むのです。技術的課題解決は、尖ったメンバー達からすればやりたくてしょうがない状態になりやすいので。ところが、製品としての体裁を整える作業は地味でコツコツ積み重ねる必要がある作業ですので、それを三度の飯よりやりたいという人はなかなかいないのは当たり前で、それなりに時間がしっかりかかります。そもそも尖った人しかいないと誰もやりたがらずにいつまでも仕上がらないという可能性も高いくらいなのです。
そしてもう一つのポイントが、売れたあとのことを考えることです。製品の出荷の仕組みやサポートの仕組みなどをそれなりに考えておかないと、特に数を売るタイプの製品だと大変な目にあいます。私のところのように技術者ばかりの組織ですと、このあたりで大変な苦労をしました。結局、販売やサポートが得意なパートナーさんと手を組むことで解決しましたが、「売れてから考えればいい」というほど簡単なことではありません。
このような背景から、実は採用のポイントもだいぶ変わってきました。以前は「とにかく尖りまくった人を」と採用していましたが、技術はもちろん大事ながらも、「しっかりコミュニケーションができて、チームワークができる人」という点を重視するようになりました。尖った人がいないと技術的に突破できないとはいえ、尖った人だけでは仕上がらないですし、ビジネスとして回らないということが自分たちの経験で良くわかったからです。製品は世に出してからが勝負だと私は考えています。技術的に世界で唯一などというものはそう簡単に作れませんが、世の中は唯一でなくても困っているものがたくさんあり、それを解決する製品も価値があるのです。しっかりしたサポートがあるからという理由でフリーソフトではなく有償のソフトを導入するケースも実際に多く、せかいいちでなければ製品化する意味がないというのは大きな間違いだと私は考えています。実際に、私のところの製品も、ほとんどは誰でも作ろうと思えば作れるものです。作り上げて売り続けて、サポートし続けるから価値があるわけです。
自社製品開発というと技術的な所ばかりに目が向いてしまいがちですが、実際には趣味で作るのと違って技術以外でもいろいろな仕事が必要でいろいろなことを担当する人が必要なのです。そして、技術的に尖った人は何でもできそうに見えがちですが、実は地道な作業は苦手な人が多いということも重要です。尖った人だけではなかなか事業は成り立ちません。このポイントを理解していないと始めてからかなりの苦労をすることになると思います。