受託開発が不要なわけではない
昨日アップした「書評:システムインテグレーション再生の戦略」では、「受託仕事に良いことは全然ない」というくらいの書き方だった気もしますので、少し違う視点からの内容も書きたくなりました。
受託仕事は世の中に必要な仕事です。ソフトウェアの特注品が不要になることはなく、既存の製品やサービスだけではITは成り立ちません。特に日本では社内でソフトウェア開発力を持たない組織が多いので、外注でソフト開発を頼みたい組織はたくさんありますし、製品やサービスに業務を合わせたくない組織も多いので、特注品開発への需要は多いものです。
私が1人で受託開発業界を変えることはできませんので、私なりに長年受託開発をしてきた上での問題点を思いつく範囲で紹介しておくことにします。
・人月見積
多くの受託仕事では見積は人月によるものです。何人が何ヶ月必要かで見積もります。以前は何ヶ月という単位でしたので「人月」でしたが、徐々にコストダウン意識が高くなると「人日」と、より細かい単位で見積を要求されるようになってきた感じでした。
誰でもできる単純作業の開発であれば、人月でも人日でも良いかも知れませんが、ノウハウやスキルが必要な開発を実働時間で計算されたのでは割が合いません。ファンから頼まれ、ピカソが30秒で絵を描き上げて、いくらと聞かれて100万ドルだと値段を言い、「たった30分なのに?」という反応に対し、「30年と30秒ですよ」と答えたのと同じようなイメージですね。開発に関する技術的なスキルなどはもちろん、同じ分野の案件を継続していればノウハウも蓄積され、開発効率や品質は全く異なるのにも関わらず、実働時間だけで判断されるのはおかしな話しです。
・人月単価が均一化されていること
ノウハウやスキルによって開発効率や品質が大きく異なるにも関わらず、人月単価も基本的には差をつけさせてもらえません。せいぜい、PM,SE,PG,TGなど、役割で単価を変えることがあるくらいで、それも高い方に幅を持たせるというよりは、低い方を強調するためという意味合いでした。何度か「他社ではできないこと」「他社と数倍の開発効率の差があること」などで単価交渉をしたこともありますが、回答は「単価を高くすると、調達部門が目をつけ、なぜそこに発注しなければならないかを説明しなければならなくなる。返って不利になるから他社と同じレベルの単価にすべき。」とのことでした。実際は配慮してくれて「単価は上げられないが、工数を多めに見積もってつじつまを合わせてね」と気を使ってもらいましたが、開発を担当しているメンバー達からすれば、ろくに仕事ができずに問題ばかり起こしている会社と同じ単価というのはプライド的にも気持ちの良いものではありませんでした。
・不要なドキュメント作成が多すぎる
受託開発では納品物にほぼ確実にドキュメントが含まれます。ITが複雑で大規模になるに従い、世の中で様々なシステムの問題が発生したことにより、テストに関するドキュメントもどんどん増え、品質を上げるためにテストをしているのか、納品物のボリュームを出すためにテストをしているのかわからない状態になるくらいでした。仕様書もボリュームを要求されましたが、納品後に仕様書を読んでくれるケースは非常に少なく、問い合わせが来た際に「それは仕様書に書いてありますが・・・」と答えると「今手元にない」「いそいでいるから」などと、基本的に困ったらいつでも電話やメールでした。
他にも合った気がしますが、これらが嫌で私は個人的に受託開発仕事から離れることを考えてきたのです。受託仕事の存在自体に疑問を持っていたのではなく、やり方が気に入らなかったのです。もっとも、これは私の感覚として嫌いなだけですので、逆に製品開発販売のような仕事が嫌いな人もたくさんいると思います。この問題にも正解はありませんので、様々な情報をもとに自分たちの進むべき道を考えていくのが一番でしょう。