製品販売事業の難しさと、やったことがないことは空想しかできないということ
今日は当社製品の販売店さんとの打ち合わせをしてきました。製品開発販売を立ち上げた当初は、「直販」しか頭になかったのですが、実際に販売を始めてみると、直接ユーザさんに販売するケースはごく希であり、多くは間に販売を専門とする業者さんや、SIerさんが入るということに気がつきました。まあ、考えてみれば当然で、自分で買い物をする際にも、メーカーから直接買うことより、お店やネットショップなどから買うものですよね。
それに気がついてから問題になったのが、値付けでした。直販を前提に値付けしたので、利幅が少なすぎたのです。ソフトウェア製品はまだしも、アプライアンスはハードの仕入があります。定価とはユーザさんが購入する価格であり、販売店さんに定価で卸したのでは、販売店さんは何の儲けもなくなってしまいます。ところが、仕入の関係もあり、卸価格を下げると自分たちの利益がほとんどなくなってしまうのです。
また、定価を公開することも販売店さんからやりにくいと言われたものでした。もともと安価に価格設定したため、アプライアンスは卸価格を下げられないため、販売店さんとしても薄利で、定価が買い手に明示されてしまっていると値引きの要求を受けやすく、非常にやりにくいという感じでしょう。
さらに、サポートの手間も甘く見ていました。販売に関する問い合わせは予想外に多く、販売店さんが増えれば今度は販売店さんからの問い合わせが増えます。技術的な問い合わせ対応はともかく、販売に関しては技術者集団の当社では非常に負担が大きく、かなり当初の直販前提から方向性を変えて対応してきました。
そんな感じで、素人丸出しの製品開発販売事業でしたが、すでにIntraGuardian2を中心に数が出る製品の実績も積みましたし、ProDHCPのようにそれなりに単価が高い製品の実績も増えました。製品それぞれ売り方もサポートも全く異なるものです。
今検討しているのは、販売に関するサポートも技術サポートも、そういう分野が得意な会社さんにお任せする方向です。製品が売れれば売れるほどサポート対応が忙しくなってしまい、開発に影響がかなり出てしまっています。開発メンバーがそのようなサポートも対応しているのが原因です。サポート要員を採用しても良いのですが、もともとそういうビジネスをしていなかったので、今から管理体制まで作り上げるのはかなりの時間がかかってしまいます。当社の強みは開発力ですから、それ以外は、得意としている会社さんと連携する方が自分たちはもちろん、お客さんにもメリットが大きいと考えています。
このような検討ができるようになったのは、もちろん、メンバー達のがんばりにより、きちんと実績を作ってきたからなのですが、今のまま続けていてはサポート対応も開発も共倒れしかねないという判断で、まだ何とかなっている今のうちに次の体制に向けた準備を進めておかねばならないわけです。
どんなことでも、やってみなければ分からないものです。当初の方針を貫こうと意地を張っていても意味がないことです。やってみてはじめて見えてくるものを素直に受け入れ、それにどう対応するかをできるだけ早く考え、手を打つことを繰り返すことが大切です。そうやって事業もメンバーも成長していくものです。
私が若い頃に担当していたCADシステムの開発販売事業を思い出すと、恥ずかしいことに最初から理想ばかり描いていました。年間販売計画を希望的観測で立て、それに対応するには、これだけのスタッフが必要だとか、こういう販促活動をするとか、こんな販促グッズを作るとか・・・。自分達がやったことがないことなど、予想できるはずないのです。そんな空想をしているくらいなら、本当に売ることを経験してみるべきだったのです。実際にやってみれば、「そもそも売れない」「スタッフの採用は難しい」「投資するどころか日銭すら稼げない」など、すぐに呆れるほどたくさんの壁にぶち当たったわけです。
現在の製品開発事業の立ち上げ時にも、メンバー達が同じような理想話をしていたこともありました。私は若い頃にひどい目にあっていたので、まずは実際にやってみることを優先させましたが、「こういう状態になってからでないと売れない」などと言っていたものです。その後実際に売ってみると、「やはりきちんとした状態にしないで売ると、売った後の苦労がひどい」などと言っていましたが、私はそれで良いと思っていました。どれだけ苦労するかは経験しなければわかりませんし、それを経験した後でないと本当にどうすべきかはわかりませんから。事業は最初から理想通りにいくものではありません。「あれがないからできない」などとできない理由を言っているうちは何も生まれません。ないものだらけの中でも、やってみて、苦労をしてみて、それを解決しようと努力するから徐々にあるべき姿になっていくものです。要するに、ファーストユーザもいないうちにその製品のサポート体制など考えられるはずもなく、そもそも市場に受け入れられるかどうかすらわからないわけです。
それに、「事業は稼ぎながらでないと続けられない」ということも経験しておくことが大切です。事業は趣味ではないので、お金もきちんと回さなければなりません。
そんな苦労を積みながらも、様々な協業のお声がかかる状態まで製品開発事業が立ち上がってきたのは、本当にうれしい限りです。メンバー一人一人がきちんと痛い目にあってきているので、土台がしっかりした事業になっていることもうれしいことです。