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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(95) 通信と電力(2) 情報は分離できるがエネルギーは分離できない

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こんにちは。本業は文書化能力向上コンサルタントで、電力にも原子力にも何の関係も無いのになぜか原子力論考を書いている開米瑞浩です。

前回、「通信は情報だが電力はエネルギーである」「情報は機器を壊さないが、エネルギーは壊すことがある」ということを書きました。

今回は、「情報は分離できるがエネルギーは分離できない」という話です。

まず、通信のほうの自由化の仕組みから行きましょう。
例として有線インターネット接続サービスのADSLでよく使われているのがこういう仕組みです。

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「加入者線」というのはNTTの収容局と一般の家庭や会社をつなぐ線で、いわゆる「ラストワンマイル」と呼ばれている部分です。NTTの収容局にはMDF盤という装置があり、加入者線はいったんすべてMDF盤に収容され、そこから通信事業者の基幹回線に分岐します。基幹回線を提供する事業者はNTTやヤフーやKDDIなど複数あり、利用者は好きなところを選んで契約することができます。契約先がA社であろうとC社であろうと、最寄りのNTT収容局(たいてい、歩いて行けるところにあります)までの短い加入者線はNTT所有の回線を使い、そこから先は契約している会社に分かれます。つまり、MDF盤から向こうは完全に分離されていて、A社回線にトラブルがあってもB社・C社回線への悪影響は基本的にはありません
(ちなみにMDF盤そのものは配線の切替を効率よく行うための装置で、要は無数の電線のオバケです。MDF盤で情報処理をしているわけではありません)

一方、電力について「発送電分離」をした場合のイメージはこれとはまったく違います。

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たとえば発電会社がA社・B社・C社あったとして、利用者が「B社の電力を使いたい」としてB社と契約したとしましょう。しかしそこでB社発電所から利用者まで長い長い送電線を引くのは非現実的な話で、東京電力等の既存の電力会社の送配電網を使うことになります。こういう仕組みを「電力の託送」と言います。

通信で使われているMDF盤は単なる配線の集合体ですが、送配電網は数百kmの長い長い送電線と多段階の変電所、配電線からなる極めて複雑なしくみです。

問題は、いったん送配電網に入った電力は、もはや「どの発電所から来たものか」区別されない、ということです。これは技術的に不可能なので、政治の力でどうにかなるようなものではありません。電力は情報ではなくエネルギーなので、発電所から送配電網に送られた時点で他の発電所の電力と融合して一体化しています。

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そのため、

どこの発電所で起きたトラブルも、送配電網全体に影響を及ぼします。

単純な話、B社発電所が止まればその分を他社がカバーしなければいけない、というわけです。これが通信網であればこういう問題は起きません。C社の基幹回線がぶち切れたとしても、MDF盤は単に配線をつなぎ替えているだけですから、C社の契約者以外には基本的に影響ありません。

電力の場合、そうはいかないわけです。電力は送配電網で一体化するため、全体で需要と供給のミスマッチが解消されるようにコントロールしなければいけないわけです。

B社発電所が止まったら、B社契約者への電力供給をカットすればいいのでは? と思われるかもしれませんが、電力が止まったらビジネスが止まって大損害が起きますし、病院などではマジで人が死にます。電話が切れても「ちっ、切れちまった」ですみますが、停電は直接、死亡事故や機器故障を含む大損害を引き起こすわけです。前回書いたように、電力品質が下がると電気機器の故障も増えます。

こういう事情があるため、発送電分離をしたとしても、通信の場合並みの「自由な競争」が起きると期待することはできません。電力というのは、電力系統全体で品質を維持しなければならないという制約が極めて強く、分離したとしても通信の場合のように「サービスと価格の自由な競争」を実現するのは難しいわけです。

まだ続きます。次回は通信と電力のコスト構造の違いの話。


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