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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

「ベネフィットを先に(科研費申請)」の記事に関する補足ひとつ

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こんにちは、文書化能力向上研修をしている開米瑞浩です。

Biz.ID で連載している「説明書を書く悩み相談室」で先週書いた記事、

"意外とできていない!? 最初に「ベネフィット」を明らかにして説明せよ"

に関して、科研費申請の現場にいる方からコメントをいただきましたので追記しておきます。

改善案は元の申請書に比べて読みやすさが著しく向上しており、読者である審査員が、書き手の想定した図式を容易に思い浮かべられると思いました。すばらしい改善案です。

ただ一点残念なのは、「AはやられているがBはまだやられていない。だから本研究ではBをやります。」というロジックが一部使用されていることです。このロジックはおそらく審査員へのアピールが最も低いものだと思います。

審査員へのアピールをより高めるには、「Aについては、従来研究が多数あって一定の成果を上げているが、Bを想定すると従来研究の知見が当てはまらない。そこでBに適した方式としてあらたなシステムを提案する」と丁寧にロジックを追うほうが賢明であると思います。

だそうです。なるほど。この指摘に沿って、文例を書き換えてみましょう。

(改善前)
小型エンジンの熱効率を改善しつつハイパワー化できれば、自動車の燃費改良・軽量化を達成できる。そのために有力な技術がターボ過給器だが、従来実用化されてきたのは(A)大型のエンジンにさらなる高出力を積み上げるスポーツ走行用途であり、(B)小型エンジンでの市街地走行を想定した研究はなされていない。そこで本研究では(B)用途を想定し、(1)エッジスクロール機構と耐熱材料を採用したターボ過給器、および(2)市街地走行用の制御アルゴリズム――を開発する。

(改善後)
 小型エンジンの熱効率を改善しつつハイパワー化できれば、自動車の燃費改良・軽量化を達成できる。そのために有力な技術がターボ過給器であり、これまでは(A)大型のエンジンにさらなる高出力を積み上げるスポーツ走行用途を中心に一定の成果を挙げてきた。しかしこの用途ではエンジンの高回転域を中心に使用するため、(B)小型エンジンでの市街地走行で多用される中・低回転域にはそのままでは適用できない。そこで本研究では(B)用途に適した方式として、(1)新開発のエッジスクロール機構と耐熱材料を採用したターボ過給器、および(2)市街地走行用の制御アルゴリズム――を開発する。

「Bを想定すると従来研究の知見が当てはまらない」のはなぜか、という理由を追加してあります。
こんなふうに書くほうが、「なるほどこれは新しい研究が必要だな」と印象づける強いアピールになる、ということですね!

引き続きコメント募集しております! (^_^)/
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