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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(50)「発送電分離」を主張する前に考えたいこと

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 前回に引き続き、電力システムの話。電力屋でもない私が・・・は、(以下略)にしておいて(笑)

 本題ですが、

A.発送電分離論
東京電力(を含む日本の電力体制)は地域独占されていてけしからん! 競争が起きないから電力料金も高いのだ! 発送電分離して競争原理を導入すれば電力料金も安くなる!

という主張を聞いたことがある方も多いことでしょう。
もうひとつ、

B.自然エネ大規模推進論
太陽光・風力・地熱などの自然エネルギーを大規模に導入して脱原発・脱化石燃料を実現しよう!

という主張もよく見かけます。

主張をするのは自由ですが、この2つの論は両立が非常に難しいものなので、もし同じ人物がこの2論を同時に唱えているようなら、本当に分かって言っているのかどうか疑問です。

前回書いたように、「電力系統」は大小さまざまな多数の「発電所」「変電所」をネットワークして需要家に電気を届けるシステムで、「全体をシンクロさせて動かさなければならない」という絶対的な制約条件があります。これは物理法則なので、政治的な事情で「やめろ」と命令できるようなものではなく、創意工夫と努力や根性でなんとかなるようなものでもありません。

中でも重要な条件は、「瞬時瞬時に電力供給を電力需要に一致させること」です。

    電力供給 = 電力消費

これが一致しないと電圧と周波数が変動を始め、電気機器が誤動作したり故障したりするようになります。家庭では気がつかないかもしれませんが、産業用機器には電圧・周波数の変動に非常に過敏なものがあり、一瞬の狂いが莫大な損失を生むケースがあるため、電力会社は「電圧と周波数を安定させつつ電力を供給すること」を至上命題としています。

さて、ここに3種類の電源があります。
電源1:石炭火力発電所や原子力発電所は「安定性(一定の出力を保つ能力)」が高いですが、「追従性(必要に応じて短時間に出力を増減させる能力)」が低く機数が少ないため、定格出力固定での運用に向いています。
電源2:石油火力やLNG火力発電所は「安定性」が高く「追従性」も高い電源です。
電源3:自然エネルギーのうち風力や太陽光は「安定性」が低く「追従性」も低い電源です。



この3種類の電源を組み合わせて「需要の変動」に瞬時瞬時に対応しようとすると、
電源1は定格出力固定で動かしながら、
電源2は集中制御によって出力変動をさせ、
電源3は集中制御によって必要に応じて最大出力を抑制する
という運用をすることになります。

「出力変動」というのは、車で言うならアクセルを踏んだり戻したりすることです。石油やLNG火力はこれができます。

一方、自然エネルギーは風任せ、太陽任せなので「アクセルを踏む」ことはできませんが、たとえば「100機あるうちの50機を切り離す(これを解列といいます)」ような操作で出力抑制をすることはできます。実際には切り離さずに出力抑制が可能な風力発電機もありますが、いずれにしても「アクセルを踏む」ほうは風まかせ、太陽まかせ。人間ができるのは「ブレーキを掛ける」ことだけです。

そしてここで問題なのは、変動運用にしても出力抑制運用にしても

    「集中制御しなければならない」

ということ。送配電網の運用者が権限を持って需要と供給のマッチングを行い、電源2や電源3をコントロールしないと需要変動には対応できません。

実際、風力発電を大規模に導入しているスペインではそのような運用を行っています。
スペインでは全土の電力系統をREE社という会社が独占的に管理していて、CECREというコントロールセンターが発電設備の集中制御を行っています。

2007年6月30日から、スペインでは、風力に限らず、設備容量が10MWを超えるすべての発電設備はCECREにより直接制御されなければならない、とされた。
スペインにおける風力発電と電力系統制御

「風力に限らず、設備容量が10MWを超えるすべての発電設備は」です。つまり、発送電分離をしたとしても、発電所は送電網の指令に従わなければいけない、と。そういう形態でなければ電力系統の安定運用はできないというわけです。競争原理を導入すればコストダウンのインセンティブが働き、電力料金が下がる、というのが発送電分離論の目論みでしょうが、電力というのは「系統全体を統合運用しなければならない」という制約上、競争原理にはそもそも一定の制限をかけざるを得ないわけです。

だから、「発送電分離論」と「自然エネルギー(特に風力、太陽光)大規模推進論」の両方を同時に唱える人がいたら、その矛盾をどう考えるのか、と聞いてみたいですね。

早い話が、前々回も話題にした「太陽光発電全量買取42円/kWh」、発送電分離をして、この値段で電力が売れると思いますか?
常識的に考えて売れるわけがありません。現在の家庭用電力料金単価が20円/kWhぐらいです。送電網がその2倍で発電所から買い取るならば、それ以上の値段で売らないと利益は出ません。電力料金が2倍、3倍になっても太陽光の電気を買いますか? よほどエコ意識が高くてお金が余っている人以外は買わないでしょう。

「再生可能エネルギー全量買取」なんてのは、発送電分離をしていないからこそできることです。

スペインは確かに風力発電の大規模導入の成功例ではありますが、もともと電力品質の要求水準自体が高くありません。
また、スペインは日本に比べて安定した偏西風が吹くため、風力発電の発電量変動も小さく、気象予測を通じた発電量予測がしやすい条件がそろっていました。そうした自然条件の違う日本でスペインと同じようなしくみを作ったとしても、同じ効果が出るとは期待しづらいわけです。

「発送電分離」を魔法の呪文のように唱える論者には要注意ですね。


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