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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

新社会人のシーズンを前に同調圧力について考える

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文書化支援コンサルタントの開米瑞浩です。
新社会人のシーズン、ということで、同調圧力の話でも書きましょうか。

「同調圧力」というのはある特定の範囲に限定された集団内で意思決定を行う際に、「少数意見を持つ者に対して、多数意見に従うようにと暗黙のウチに強要される力」のこと。
これを象徴するキーワードの1つが「空気読めよ」というやつです。

聞くところによると、日本の社会は「同調圧力が強い」らしいです。
実際私もそんなふうに感じてきました。

以前、部活動がらみで学校と喧嘩した話を書きましたが、

「なぜ部活動を強制されるんですか?」
「みんながやってるんだから、やるのが当たり前でしょ」
という応対を当然のようにされたときは、この教師と話をしても無駄だと思いましたとも。

というわけで今日は、日本社会にはなぜ「同調圧力」というものが存在するのか、についてとりとめもなく書いてみます。

江戸時代には人口の85%が農民であったと言われる日本ですから、日本の社会文化というか組織風土を考える上で「農村」を抜きにはできないでしょう。
しかし、たとえばフランスも18世紀には人口の8割が農民であったと言われており、単に農業人口だけ見れば日本も西欧も大差ないといえば大差ないわけです。にもかかわらず日本のほうでだけ「同調圧力」が強いとするなら、それは農業とは別な事情が背景にあるのでしょう。

その事情というのは「水」に関するものです。

灌漑システムと地域農業

もともと東南アジアの湿地帯原産の稲を日本で栽培しようとして必要になったのが「水田」ですが、水田を作るためには水と土木工事が必要です。「水」を管理するために地域単位の灌漑システムを作る必要が生じたわけです。水源から地形に応じて「低きに流れる」ように微妙な傾斜をつけた水路を引いて、わずか数センチの水位で水につかるように平らに造成した水田につぎつぎと水を溜めていく、そんなシステムを日本人は作りました。畑作主体のヨーロッパではこのようなシステムは広まりませんでした。

 そういうシステムは個人で出来るわけがなく、それは「地域の総力を挙げて」作るべきものだったし、いったん作ったらそれを運用するのも「地域単位で厳格なルールに従って」行うべきものでした。

 たとえば用水路には必ず水門があります。この水門を何時から何時まで開けるか、といったルールを公平になるように決め、全員がそれを守って運用しないと「農村の秩序は維持できない」わけです。これは文字通りの死活問題でした。

 ちなみに「古事記」「日本書紀」等の古文書からは、古代の日本社会における「罪」概念としてこういうものが読み取れます。

田の畦を壊すこと
水路の溝を埋めること
水を引くために設けた樋を壊すこと

「天津罪(あまつつみ)」としてこのあたりが挙がっているあたり、古代日本においてすでに「灌漑システム」が重要な社会インフラだったことをうかがい知れるわけです。

こういうインフラに依存する社会では、「構成員が勝手な行動を取ること」は厳禁です。

「こっそり俺の田んぼに多く水を引こう」なんてことを各自が始めたらシステムが崩壊します。「新しい方法で水路を作れば水の損失が10%減らせるからそうしよう」とだれかが新技術を提案しても、それが失敗すれば全員が路頭に迷うわけです。しくじった1人が腹を切ればそれで済む、というわけにはいきません。

また、水というのは1つのムラで完結するわけではないので、複数のムラがひとつの水系にぶら下がっている状況下で、ムラ同士の力関係による水利権の調整が存在しました。

このような環境下でムラの構成員が対外的に勝手な行動を取ると、やはりムラの全員が重大な被害を被る、というそんな環境で日本人は生きてきたわけです。

それを思えば、同調圧力が生まれるのも無理はないでしょう。

 だから日本社会では同調圧力があって当然だしそれに従うべきだ、なんてことを言いたいわけではありません。

 「同調圧力」は社会的に必要があって存在しましたが、逆に言えば「必要がなくなったらそれは捨ててもいい」わけです。

現在の国際化する環境を生きる上では「同調圧力」に頼った組織運営は不可能ですし、ハッキリ言えば「邪魔」です。いいかげんに同調圧力に寄りかかって生きるのをやめませんか?

と、これは新社会人よりはそれを迎える先輩側が考えなければいけないことでしたね。

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