オルタナティブ・ブログ > 20年前の留学を、淡々と振り返る記録 >

高校卒業直後にアメリカの全寮制高校に飛びこみ、文化、言語、価値観、人間関係、そして勉強で七転八倒しつつ適応していった、5年間の留学生活から学んだレッスンを、具体的エピソードを交えて紹介。

強烈な洗礼のおかげで芽生えた"反骨心"

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カフェテリアで、まずいパンとコーンフレークを食べていると、それまで黙って食事をしていた隣の白髪のお婆さんが、私に向かっておもむろに話しかけてきました。


「・・ジュンジとやら、ここの生活は楽しいかね?」

ゆっくりした口調だったので、私でも聞き取ることができました。が、今日が実質の学校生活初日なので、楽しいもへったくれもありません。ただ、気を遣ってくれたのだと理解しまして、

「ハイ、ココハ、トテモタノシイデス」

とお約束な回答を返すと、お婆さんは「そうかね」と微笑んでくれました。しかし、同じテーブルにいた目つきの鋭いエチオピア人高校生は露骨に、


「けっ」

と見下すように薄ら笑いを浮かべました。


「てめえに、ここの何がわかるっつーんだよ」といわんばかりの表情です。たしかに、昨晩到着したばかりの右も左もわからない私に、学校が本当に楽しいかは知る由もありません。ただ、お婆さんが差し出した会話のキッカケであり、儀礼的に言ってくれたわけです。

きっとお婆さんは気を悪くするか、彼をたしなめるのではと予想しました。ところがお婆さんは、その態度に気がつかなかったかのように食事を再開しました。また、不思議なことに2人の小学生も私を見て、ニヤニヤ笑っています。

なんだか違和感を感じましたが、その理由はすぐにわかりました。


話を聞いていると、お婆さんは国語を教える先生なのだそうです。よって、残りは全員が留学生となります。なんと小学生も親元を離れ、寮生活を送っています。で、彼ら英語レベルが「ハンパなく高い」ことに衝撃を受けました。

あとでわかったことですが、メキシカンと韓国の小学生はアメリカ生まれの完全なバイリンガルで、エチオピア人はエチオピアからやってきているものの、母国で英語が広く使われているようで、流ちょうにジョークを飛ばしたりしているのです(聞き取れないけどそんな様子っぽい)。同じ留学生同士なのに、越えられない壁を感じてしまいました。


そして、さっき「けっ」と笑われ、小学生にニヤニヤされた原因を悟りました。

「学校が楽しいかどうかわかっていないのに、楽しいと答えたこと」ではなく、単純に「私の英語レベルの低さ」を瞬時に見抜き、バカにしたのです。

一般的に日本人は、中高6年間の英語義務教育のおかげで文法はそれなりに知識を備えていますが、こと「話す・聞く」となるとてんでダメとよく言われます。私もまったくその通りでして、自分の「話す・聞く」力のなさに改めてショックを受けていました。


しょっぱなにガツンと洗礼を浴びせられたおかげで、「なにくそ」と反骨心も芽生えました。「ハ~イ、ナイスミーチュ~」と中途半端に親しくされるより、よかったのかもしれません。それに、自分より一回りも年下の10歳前後の子供にバカにされるなんて、あれはあれで貴重な体験だったと、今では笑って話せます。

けれども、あの瞬間に味わった悔しさと情けなさは、決して忘れることはありませんでした。


つづく



代表 中山順司
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