新入社員研修に思う「規律」と「自律」
「パソコンやスマホはカバンにしまってください。机の上はノートと筆記用具だけ残すように。いまからは講師の話をしっかり聞いてください。」
新入社員研修での講義の冒頭、人事担当の方からこんな前振りがあった。
ああ、失敗した。はじめにちゃんと打ち合わせておけば良かったと大反省。しかし、後の祭りだ。仕方なく、前に出て挨拶する。そして、次のように伝えた。
「いま、パソコンやスマホはカバンにしまってくださいとのことでしたが、申し訳ありませんが、私の講義では、パソコンやスマホをうまく使って欲しいと思いますので、できれば改めて出してください。そして、私の話で分からなければ、すぐにでも調べて下さい。曖昧なまま飛ばしてしまうより、その場で確認したほうが、いいわけですから、そうしてください。ノートよりもパソコンやスマホのほうがメモをとりやすいのであれば、それを使っていただいてもかまいません。」
パソコンやスマホを片付けさせるのは、講義に集中せず、学んで欲しいことをまなばないままになってしまうことへの懸念からであろう。また、パソコンやスマホを内職の道具、特にスマホは遊び道具という思い込みを前提に、そんなものを使わせて講師に失礼があってはいけないという敬意の表れでもあるのかもしれない。しかし、もうそんな旧態依然とした慣習は終わりにしてもいいのではないかと思っている。
実際のビジネスの現場では、当たり前に打ち合わせでパソコンやスマホを使い、打ち合わせのメモをとったり話している内容について関連する情報を調べたりしているではないか。そんな現場の当たり前になれさせることも新人研修の大切な役割だろう。
そもそも、パソコンやスマホで遊んでしまうのは、講師の話が面白くないからか、本人にやる気が無いかのいずれかだ。講師は、彼らを惹き付け、のめり込ませるような話しをすればいい。それが講師の仕事だ。本人のやる気のなさは、講師の話が面白くないからという場合もあるので、ある程度は講師の責任の範疇ではあるが、そもそも学ぼうという意欲がなければ、どんなに内容がすばらしく、講師の話がうまくても、本人の身になることはない。だから、スマホがあるかないかにかかわらず教育効果は期待できないのだから、どちらでもいいことになる。ただ、身体の具合が悪いとか、ナルコレプシー (narcolepsy) のように、日中において場所や状況を選ばず起こる強い眠気の発作を主な症状とする脳疾患である場合も希にあるので、そういうことには気を使わなくてはいけない。
いずれにしても、規律を徹底させ従順な人材を育ててゆくという旧態依然とした新入社員研修のやり方は、そろそろ終わりにした方がいいのではないかと思っている。テクノロジーが多様化し、ビジネスのあり方も大きく変わろうとしているいま、新人たちに新たな時代を切り拓く担い手となってもらわなければならない。そんななかで、過去のやり方に従順な人材を育てることを志向した研修は、自社の可能性や多様性の発展の足かせとなる。
これは経営者の怠慢としか言いようがない。未来への責任を背負う経営者が、自分たちの未来のために新入社員研修に何を期待するかを示すべきだろう。しかし現実には、研修担当者からいつも通りのやり方と予算を示され、やり方には何も言わずに予算だけを「もうすこしなんとかならないのか」としか言わないようでは、そんな会社の未来はない。いや新入社員たちのやり甲斐さえを貶めてしまうことになるだろう。
規律で人の行動や思考を縛る時代から、ビジョンを示し、その達成のために自律させる。そんなことができる人材を育ててゆくことが求められているように思う。自律は、明確で崇高な、そして困難な目標やビジョンが必要であり、それを達成するためには工夫が必要であり、結果として共に働く人たちへの敬意と自助を養う。自ずと、それは秩序や習慣となって組織の文化となってゆくだろう。
もはや薹が立った人たちにそれを期待することができないのであれば、若い人たちに託してみてはどうだろう。そんな視点に立って、新入社員研修のあり方を改めて問い直してみてはどうだろうか。
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