営業スキルの強化ですか、それとも売上の増大ですか?
「営業スキルの強化ですか、それとも売上の増大ですか?どちらを目的とお考えですか?」
営業研修のご相談を頂き、このような質問をさせて頂いた。
売上の伸び悩み、新規顧客が開拓できないこと、案件の種類や幅が広がらないこと、それは営業のスキル不足であり、それを強化することで解決できると期待されていたようだ。
また、イメージされている「営業スキル」とは、プレゼンテーションやコミュニケーション、交渉術や説得術、情報収集能力や分析力などで、これらを鍛え、その技能を向上させたいのとのこと。
しかし、研修に与えられる期間は、わずか1日。それで、これらを網羅した研修を提供することは容易なことではない。1日という限られた時間の中でできることは「知識の提供」であり、定着させるには実践で取り組む必要があり、それには相応の時間かがかかる。既に一定以上の営業スキルを持ち、実践されている方が、自分のやっていることを振り返り、自分の課題を見つけ、改善の糸口を掴むという目的であればいいが、そういうスキルがそもそも「ない」という人たちに対して、このような研修は、ただのエンターティメントでしかなく、忙しい仕事からしばし逃れる口実以外の何ものでもない。
いずれにしろ、1日という限られた時間の中で、「営業スキルを強化する」ことは絶望的。しかし、本業を抱える営業マンが長時間研修に費やすこともできない。
「営業スキルは強化されなくても、売上が伸びればいいのでしょうか?」
こんな私の質問に相談者からは、「売上が伸びればいいです」という答えが返ってきた。
売上の増大のために「営業スキル」は必要だ。しかし、このスキルというものは、残念ながら短期間の「研修」で強化できない。時間をかけ、経験を通じて、「育成」するもの。そういう「育成」の環境が既にあり、本人もスキルを求めているような状況にあっては、「営業スキル研修」は一定の効果を期待できる。それがない状況にあっては、ほとんど効果はない。いや、時間の無駄だ。では、どうすればいいのか。
「守破離」という言葉がある。わび茶を完成した千利休の教えを、和歌の形式にまとめた「利休道歌」のひとつ。
規矩作法 守り尽くして 破るとも 離るるとても 本ぞ忘るな
「守」とは先人の築き上げた「型」を守ること。そこには、先人が苦労して成し遂げた経験が、織り込まれている。まずは、これを徹底してまねることで、先人の知恵を自分のものとして会得する。
この「型」を徹底的に守り通した上で、これをあえて破ってみる。自分ならではの工夫で、試してみる段階、それを「破」という。本来を知りつつ、自分なりにそのやり方をあえて破ることで、自分ならではの「型」を求める段階と言える。
そして、それを他にも伝えられるほどに洗練させることができたならば、そこには、今までにはない「型」が生まれてくる。この段階を「離」という。
営業活動でいう「型」とは、自社の営業活動を行うための標準的な手順を洗い出し、体系的に整理整頓したもの。受注を成功させるための行動を時間軸に沿って体系的に整理したものだ。これを「営業活動プロセス」と言う。これを作り、これを使うきっかけと動機付けを与えることがまずは大切だと考えている。
まずは、「型にはめる」わけだが、これは本人の個性を無視するということではない。先人の知恵を、あるいは成功している人のノウハウを体験的に会得しようという試みだ。それを徹してゆけば、自ずと「破」の時期を迎え、個性を活かす機会が生まれてくる。
しかし、「型=営業活動プロセス」を「守」らせる上で大きな壁がある。それは、「素直さ」だ。新入社員や女性は、この壁は低いが、経験を積まれたベテランの男性は、プライドが邪魔をしてしまい、なかなか型を守れない。もちろん成功体験もあり、自分なりの型を持っているのは分かるが、自分の「経験」というバイアスから抜け出せず、客観的に自分をみようとはしない。「そんなことは分かっている。経験済みですよ。」とお考えなのかもしれないが、それが改善や成長の妨げになっていることは否めない。
解決策は、ここにある。つまり個々のスキルを学ぶことではなく、「営業活動プロセス」を理解していだき、それを「守」ることの意味や価値を理解させ、意固地な自分の意識の壁が、どれほど成長の妨げになっているかを気付かせることだ。このような研修であれば、1日でもできるし、一定の効果は期待できる。もちろん現場での継続的な努力は必要だが、強い動機付けときっかけを提供することならできるだろう。
「営業活動プロセス」という型に従うことで、自分の営業スタイルを冷静に振り返ることができる。それが、できるようになれば、自ずと、自分の強みや弱点を分析的に見極めることができる。
「営業スキル」をいくら積み上げても、「売上の増大」には、直接は結びつかない。むしろ、売上を増大させるための「営業活動プロセス」を実践する方法と動機付けを与えることを優先してはどうか。そういう「守」の取り組みをすすめることで、自らの不足を知ることができれば、自発的に改善して行こうという意欲が生まれ、結果として営業力の強化につながる。
日常の慌ただしさ、忙しさの中で、全てをフォローできる研修は不可能。優先順位を決めなければならない。そう考えると、「型を守る研修」=「営業活動プロセス研修」は、有効な選択肢ではないかと考えている。
<参考>営業活動プロセス・チェックシート(セールス・マニュアルとともに)
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