最初はギタリストだったドクター・ジョン
20年位前の話である。一度本気でピアニストになろうと思って、独学でピアノを練習したことがある。もちろん本当のピアノを買うお金なんか持っていなかったし、置く場所もなかったので、ヤマハのエレクトリック・ピアノを買って練習していた。エレクトリック・ピアノとは言っても、当時の金額で30万円くらいはしたと記憶している。昔から無駄使いが得意だったのだ。
では、なぜサックス・プレイヤーの私がピアノを弾きたいと思うようになったのか。その理由は、すべてニューオーリンズの白い魔術師ドクター・ジョンのせいである。ドクター・ジョンのようにピアノで弾いてみたい。それがピアノを始めることになったきっかけである。
普通のリスナーを、ピアノを弾いてみたいと思わせるほどドクター・ジョンの音楽は素晴らしいわけで、今でも聴くことが多い。このドクター・ジョン、もちろん世間一般にはピアニストとして有名なわけだが、実はピアノを弾く前はギタリストだったということはあまり知られていない(ドクター・ジョンのファンであれば当然知っているんでしょうが)。
自伝「フードゥー・ムーンの下で」(現在は残念なことに絶版になっている)によれば、喧嘩の仲裁に入った時に、誤って拳銃で撃たれてしまい、左手の薬指を傷つけてしまったということだ。それを機に、ドクター・ジョンは最初にオルガン、そして次にピアノを演奏するようになる。つまり、不慮の事故がなければ、ドクター・ジョンがピアノを弾くことはなかったかもしれないのだ。
お薦めは、やはり彼の3枚目のアルバム「ガンボ」(1972年発表)につきる。このアルバムは、昔からニューオーリンズに伝わる名曲をカバーした内容なのだが、聴いているうちに自然と体がムズムズしてくる不思議なアルバムである。ニューオーリンズ・ファンク屈指の名盤と言っても大袈裟ではないわけで、全音楽ファンにお薦めの1枚だ。
ちなみに、普段音楽を聴く時は、もっぱらモルト・ウィスキーを飲むことが多いのだが、リトル・フィートとドクター・ジョンを聞くときだけはバーボンと決めている。
ちなみに、今はピアノはまったく弾けません。渋谷のライブハウス、クロコダイルで演奏したのが最後です。