これは必読「ジオン軍の失敗」。Amazonでは一時的に品切れの大人気状態も頷ける
「評伝シャア・アズナブル」(皆川ゆか著)と同じく史実を振り返りながら、
ジオン公国軍を敗戦に至らしめた、兵器開発戦略上の失敗から示唆を見いだし、
ビジネス戦略における判断を適切に行えるようにガイドしている名著
「ジオン軍の失敗」(岡嶋裕史著)をオラクル広報玉川氏の薦めで一気に読了した。
失敗の原因をひもとき、再発防止やイノベーションに導くという意味では、畑村洋太郎先生の
「失敗学のすすめ」にも近いアプローチである。ちなみに、ブログ執筆時現在、
Amazonは一時的に在庫切れとなっている。お近くの書店(講談社新書のコーナー)で
見かけたら即買いをお勧めする。
製品、商品、サービスなど、モノ、価値を作り出す立場の方々は、必読である。
「ギレンの野望」歴戦の強者にとっては、いずれも既知の事柄かもしれないが、
あらためて本書の目次を読み返してみたい。
第1章 MS‐06FザクII―技術においては、「寿命の長さ」は必ずしもいいことではない
第2章 MS‐06R高機動型ザクシリーズ―技術規格を増やすのは善か悪か
「イノベーションのジレンマ」と同じような示唆である。成功した製品があると、
なかなか次のステップに進みにくい。岡嶋氏は「ジオンの悪癖」として、
コンペティションに破れたはずの開発ラインを止めて、リソースを集中する
ことができない点を挙げている。これも周知のことかもしれないが、マイクロソフトは
あるコンセプトを商品化する際に、初期のある段階まで意図的に社内に複数のチームを
立ち上げ、コンペティションを行わせている。しかし、さすがは連邦的というか、
勝ち残れなかった技術はチームごと葬り去られることも少なくない。その仕掛かり
には正直もったいないと思ってしまうが、他のベンダーに払い下げられて日の目を見る
ようなことも、コアメンバーが独立してさまざまな権利関係をがんばってクリアして
実現することはあろうが、プロセスとしては成立していない。
第3章 MS‐07グフ―進化しすぎた技術は、環境変化で絶滅する
第4章 MS‐09Rリック・ドム―あるセグメントで成功した技術が、別のセグメントでも成功するとは限らない
局地戦用モビルスーツの開発・運用は、ギレンの野望プレーヤーの得意とするところ
ではなかろうか。ギレンの野望は、戦況を俯瞰的に見渡し、数ターン先の可能性を
幾通りか予測した上で、リードタイムのかかる開発や生産を行ってゆく戦略級
シミュレーションゲームである。主戦場が地上なのか宇宙なのか、地上でも湿地か
砂漠か山岳か、キーとなる戦術は対モビルスーツを想定した格闘戦か、戦車・戦闘機
・戦艦などを効率よく殲滅する射撃重視の要塞攻略かなど、戦略目標から推測される
戦況にあわせた兵器を開発し、運用してゆくのである。
地形適正にあった兵器を運用できれば、汎用的な兵器よりコスト・資源あたりの
キルレシオは大幅に向上でき、中長期的な戦況を優位に進めることができる。
しかし、1ゲームプレーヤーが容易に考えつく戦術を、思いつけなかったほど
ギレン閣下が無能なわけではない。もし、ギレンの野望が組織間の軋轢・対立を
解消してゆかないと思い通りに駒を動かせない、組織シミュレーション的な
ゲーム設計だったとすると、ジオン失敗の歴史をわかっていながらも辿ってしまう
かもしれないのである。
岡嶋氏の視点では、主に技術的観点での兵器開発の失敗原因を考察しているが、
組織の愚行を振り返ることで、その原因を探ろうという趣旨の書籍も多い。
太平洋戦争を引き合いに出した「組織の不条理―なぜ企業は日本陸軍の轍を踏みつづけるのか」や
実際のビジネスケースをまとめた「なぜ、賢い人が集まると愚かな組織ができるのか」
あたりは、多少古いかもしれないが、記憶にある方も多いのではなかろうか。
第5章 MS‐14ゲルググ―投入するタイミングを失した技術は、どんなに優秀でも成功しない
ゲルググに関しては岡嶋氏の示唆を体現したような非常に苦い思い出がある。
私が前職リアルコムで今と同じような趣旨のブログをやっていたことをご存じの方も
いるかもしれないが、ジオン視点でリアルコムのソフトウェア製品の系譜を
書き綴っていたのである。その際、ゲルググの戦場投入時期を逸してしまったことで
悔しい思いをすることとなってしまった。あの時、ゲルググの開発・量産が
間に合っていれば…歴史は変わっていたかもしれない。
現在では元々強みを持っていたコンサルティングを中心に事業を展開されており、
SharePoint関係のお仕事もこなしていただいている。ツールを導入したはず
なのにイマイチ使いこなせていない感があるという方は、是非ご相談いただきたい。
「ジオン軍の失敗」では、他にも水陸両用モビルスーツやモビルスーツのあり方に
ついても言及し、深い示唆を提示ている。別にガンオタでもないが、ガンダムを
小学生の頃にちょっとでも見たことがある、という方には当時思いもよらなかった
大人の事情を振り返る解説も丁寧になされているため、是非一度読んでみていただきたい。
私が本書をこれほどまでに持ち上げているのは、別にアフィリエイトがどうの、
ということではない。(このブログからのリンクは読者の利便性を高めるだけの
純然たるリンクであり、アフィリエイト誘導は一切行っていない)
こういう本は、私が書きたかった…。
「クラウドの衝撃」のNRI城田氏とお仕事でお会いする際にも、第一人者に
なりきれず、機を逸した私の愚行を悔やんでやまない。
とはいえ、同じ題材であっても私がここまで緻密な考察を行えたかは疑問である。
岡嶋氏および「ジオン軍の失敗」には敬意を表しており、どこかでお仕事
ご一緒させていただきたいものである。
さて、最後にしつこく告知。
グリプス戦役時代におけるエウーゴのテクノロジを一堂にご覧いただける
カンファレンス ReMIX09 の申し込みを開始している。
7/16(木)@東京ミッドタウン(六本木)
私もLive関連のセッションを担当するが、マイクロソフト主催カンファレンス
だからこそ集まる層のクリエイター、開発者との出会いを体験できる懇親会も
是非楽しんでいただきたい。(有償7,000円)