マッキンゼーのクラウドに関するレポートを戦略コンサル経験者の視点で今更ながらふりかえってみる
クラウド万歳な世論にあって「クラウドの効用は限定的であり、
大企業では逆にコスト高になる可能性もある。
ベンダーの宣伝に踊らされるべきではない」といった意味合いの主張で、
先週あたり物議を醸し出したマッキンゼーのレポート (Clearing the air on cloud computing)
の意義を、今更ながら振り返ってみたい。
時間にゆとりのある方は一度原文を読んでみることをお勧めするが、
日本語でもさまざまな解説記事が掲載されているのでそちらから輪郭を
読み取った方が効率的だ。
中 寛之氏 2009 / 4 / 20
クラウドは大企業には向かない~クラウドの一部はクラウド(雲)で翳っているというマッキンゼーの興味深いレポート~
TechCrunch 2009 / 4 / 17
McKinseyのクラウドコンピューティングに関する報告書は一部にクラウド(雲)がかかっている
Agile Cat 2009 / 4 / 20
Nicholas Carr が McKinsey をメッタ斬り The big company and the cloud Nicholas Carr の ROUGH TYPE より
ZDNet 2009 / 4 / 23
マッキンゼー、大企業のクラウド移行に「待った」
私もさまざまなところでこの論文に関する意見を求められたが、ここでは内容について
あらためて論ずることはせず、このタイミングに、誰が何の意図でこの論文を発表したか、
を考えてみたい。
まず、大前提として、おそらく彼らはクラウドに関連する技術者にこの論文を
読んで欲しいとは思ってないし、そういう想定もしていないだろう。
彼らの雇い主であり、コンタクトしたい相手は明確に事業会社のCXOで多くはCEO、
あるいは買収、売却する側のファンド、投資銀行のアナリストである。
戦略ファームがこういったホワイトペーパーを出す目的はおよそ下記3点といえる。
A.知見※があることを知らしめる
B.意外な結論、シナリオ展開でクライアントの興味を惹く
C.実プロジェクトで使う関係者のコメントを得るために客観的調査をしたフリをする
A.知見※は誤解を生みやすいが、戦略コンサルタントがその分野の知識をどれだけ
持っているか、という勝負をすることはない。無論、会話が通じる、あるいは信頼を
得るためのプロトコルあわせは事前にやっておくが、どんなに地頭がよい人間でも、
にわか仕込みで現場、ベテランの凄味に勝てるようにはならない。知見という場合、
知識の量ではなく、事象を捉える分析の視点、課題を因数分解して行く問題解析の
アプローチ方法の方がよほど重要であり、彼らはその道のプロフェッショナルである。
今回の論文ではコスト分析ということになろうが、発表されているファクトはP.25の
チャートを見ても丸められている感が否めない。実際にクライアントのプロジェクト
として実施している場合には、もっと粒度の細かい分析が行われていると思われる。
B.そして、戦略コンサルが最初に議論に望む場合、相手の心情に配慮しつつも、
予想外の極端な結論から、ディベート的に議論を生み、相手のコメントを引き出す
というアプローチをとることもある。クラウドはコスト削減に効果あり!という
先入観がある相手に「実はそうでもないのです。なぜそう言えるか聞きたいですか?」
と問題提起すれば、「いや、うちの場合は…」と自然にコメントを引き出すことができ、
CXOの断片的な発言を組み立てて、初期仮説を構築するとクライアントの問題意識に
即した提案書ができあがるのである。
C.また、プロジェクト遂行のためには定量分析だけでなく、競合やクライアントの
お客様を含むステークホルダーに多面的なインタビューを実施することになる。
したがって、戦略ファームにとって、人脈は非常に重要なリソースである。
各業界の上層部はOBも多くパイプは太いが、現場(といっても製品責任者レベル)は弱く、
例えばコールドコールで競合に直接話を聞きに行くわけにはいかないので
「業界調査やってます、まとめた結果を特別にタダで差し上げるので協力してください」
といったトーンでインタビューを実施しながら人脈を構築してゆくこともある。
調査したフリというわけではないが、戦略ファームが企画・調査・製作しているように
見えながら、実際にはどこかのクライアントからの依頼に基づいたものである場合もある。
戦略コンサルという人種は、世の中にそれほど多く生息しているわけでもなく、
直接的な知り合いがいない場合もあるだろう。ちなみに、ERPの導入支援や
オペレーション設計、アウトソーシングを引き受けている人たちと、
Mckinseyのような純粋な戦略ファームはかなり性質が異なるので混同しない方がよい。
プロジェクトの内容も、いる人の質も、もちろん単価も全く違う世界である。
今回の論文を書いたコンサルタントを直接知っているわけではないが、おそらく察するに
心底エンタープライズにクラウドが適していないと思っているわけではなく、
そう結論つけざるを得なかった何らかの事情があったと捉えた方が適切だろう。
(オマケの効用で読んでいてイラっとすることもなくなる)
ただ、今回の雇い主がファンドだったとすると、タイミング的に読みが難しい。
どこか売り買いしたいと思っている意中の企業や部門があって、デューデリジェンス
依頼を受けたファームが雇い主であるファンドから意図的に結論を誘導されている可能性はある。
タイミング的にSun/Oracle/IBMの一件に絡んでいたとすると…。
と、大げさに言っておきながらも実態は Uptime Institute がスポンサーとなって、
今回のリサーチを実施、公開させたという見方が妥当だろう。かれらのビジネス領域は
「データセンターの効率化」なのだから。
先々週でガンダム00(ダブルオー)のセカンドシーズンが終了した。
メカやキャラクター、時代背景設定の完成度の高さはさすがだが、個人的には
戦術予報士というキャラ設定が気に入っていた。
艦長でも戦闘隊長でも指揮官でもないのだが、戦闘では陣頭指揮を執る。
事前に敵の出方を予測して戦略プランを何重かのバックアップ策と共に練っておき、
戦況に応じて随時プランの変更を行う軍略家である。
これまでマ・クベやシーマ・ガラハウ、パプティマス・シロッコなど、
ガンダム世界ではどちらかというとヒール的なキャラ設定で描かれることが
多かった軍略家だが、今回00でスメラギ・李・ノリエガやカティ・マネキンが
好印象キャラで描かれていたことで、戦略家や作戦参謀を志す若者が多少なりとも
増えたのではなかろうか。
相手の表層的な言動を鵜呑みにすることなく、その背後にある意図や真意から
次のうち手を考える姿勢は戦略コンサルタントに限らず、ビジネスパーソン
全般に重要な資質である。