値上げをして良い場合・悪い場合 -財務視点で考えると分かりやすい-
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「デフレ脱却」なんてスローガンが巷にあふれているけれど、実際にモノの値段を上げるのは非常に難しい。特に長くお付き合いのある顧客であれば尚更だ。
けれどだからと言って、利益のない事業を継続するのは不毛であって、そうであれば、値上げを決断をしなければならない場面もいずれやってくるかもしれないのだ。
そんなときに、財務視点から見ると(実際に値上げできるかどうかは別にして)値上げをして良いか、悪いかが分かりやすい。
>>>ポイントはB/S、P/Lどちらに分類するものかの違い
今さら、ビジネスの一線で活躍しているだろう読者の皆さんに言うまでもないことだけれど、財務会計には貸借対照表(B/S)と損益計算書(PL)が存在して、この2つの意味は大きく違う。
そして、値上げの有無を判断するにあたっても、その根拠とするために、B/S、PLは非常に重要だ。
簡単に概略を言えば、B/Sは資産や負債を計上するもの、P/Lは売上、原価、営業利益など事業についての成績表みたいなものだと考えると分かりやすい。
すなわち、僕は折にふれて財務会計とビジネス(事業・サービス)の関係に触れてきたのだけれど、値段の決定についてもどちらに分類される要因を根拠とするかによって、値段の上げ下げに関する根拠として「理解できるか、出来ないか」が変わってくるのだ。
>>>じゃあ値上げをして良い場合とは?
で、結論から言いうけれど、値段を上げてよい場合は「P/L」上の原価が不可抗力で上がった時だ。
そして、値上げの根拠として「B/S」の科目が対象になれば、それは理解を得がたいだろう。
何故か?
すごく簡略化した説明をするけれど下記のような例で考えれば分かりやすいのではないか?
例えば、あなたがデータセンター事業を行っていて、通常であれば売上が1億円で営業利益10%を確保しているとする。そして内訳として電気料金の原価が50%を占めていると仮定するとこの場合当然ながら、営業利益額は
* 10,000万円 × 10% = 1,000万円
となる。
ところが、電力会社によって電気料金が30%引き上げられたとしたらどうなるか?
* 10,000万円 × 50% = 5,000万円 (通常時の電気料金の原価)
→ 5,000万円 × 130% = 6,500万円 (値上時の電気料金の原価)
上記のような式で原価が上がることになる。原価高騰分を補填できる利益要素が無いとすれば、通常時の原価との差分、すなわち
* 5,000万円 - 6,500万円 = -1,500万円
となり、このマイナス分はそのまま利益を圧迫することになるので
* 営業利益1,000万円 - 1,500万円(利益損失分) = -500万円
と、営業利益が落ちるどころかマイナスとになる。
例示した、利益率や原価率は適当な数字だけれども、計画していた利益が落ちたとしたならば事業の継続を危うくさせるものであることは間違いない。
このような不可抗力による原価の上昇は、値上の理由としては顧客も理解できるだろう。
※実際に値上できるかどうかは別にして・・・
>>>では、値上げが出来ない場合とは?
これがB/Sの科目であったならばどうだろう。
先の例でデータセンター事業者が「センターをもうひとつ建設するので100億円を価格に転嫁します」といったらどうだろう。
顧客にしてみれば、知ったことっちゃない投資に対して「投資したから値上します」と言えば、理解出来ないだろう。
こういった投資は、本来事業で創出される利益から拠出するべきもので、すでに「原価戻入されていなければならないもの」または「全く別の投資行為」だから。
もっと平ったく例えれば、この事業者とある訴訟を抱えていたとして、それに敗訴したために「賠償金が10,000万円あるので値上します」といったらどうだろう。
「そりゃ関係ないだろう」というのが顧客の理性であるはずだ。
この、投資も訴訟もB/S上の資産なり負債に計上されるものだ。
※投資を原価に計上する場合もあるが、その場合「売上」の内訳として入るべきもので、原価が上がることとリンクしない。
>>>例外もあるが・・・
実際のビジネスの現場においては、このような理論で正当な理由があるからと言って簡単に値上出来るものではないだろう。けれど、少なくとも理屈として理解はしてもらえるはずだと思う。
と、ここまでは真っ当な普通の話。
ただし、世の中にはこの「B/S」の科目を理由に値上を出来るところもある。
それは、事業を独占していて競争原理が働かず、顧客が他のサービスを選択できない種類のものだ。
そういった事業者は、自ら不健全なビジネスを行っている、という自覚はあるのだろうか。まぁ、違う事業とは言え、同じ土俵に立つことがあれば負ける気はしないけれどネ。
<了>
-正林 俊介-
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