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総選挙の前にアベノミクスを総括しておきたい ~企業経営の視点で~

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お隣・韓国のパク・クネ大統領が儚いことになるのではないかと思っていたら、安倍政権のほうが先に総括をすることになりました。来月は衆院解散、総選挙です。なし崩し的に決まってきているので、「え選挙なの」みたいな状況です。検索してもAKBの総選挙が先に出てくるので心配です。ここで民意を問う大事なタイミング=総選挙と判断したのは、安倍首相の好判断だと思うのですが。

安倍さんは最近の首相の中ではプレゼンが上手いです。第一次安倍政権(2006年~2007年)のときはぺらぺらと早口すぎて芯のない話をしているようでしたが、最近は話のスピードを落とし、その分力強くなりました。

首相のプレゼン能力は本当に大事です。海外で映っている首相の姿を行くとよく分かります。他国の首脳に比べて見劣りしないことは国益上、重要です。東京オリンピックが決まったときの安倍首相のプレゼンもカッコ良かったですし、本当に上手くなったと思います。

なにより、日本の首相は在任期間が短い傾向にありましたから、他国の首脳とすぐに打ち解けて話をすることは難しいと思います。安倍首相をそうそう替える訳にはいかないと思います。


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ざっくり総括すると

ここではそのスタンス=もう少し安倍さんに首相を務めてもらいたい、という前提でアベノミクスの総括をさせてください。

総括は、企業経営の視点で行います。国の経営と企業経営とではまるで規模感が違いますが、基本は同じと考えています。(残念ながら、その基本の企業経営すらできなさそうな政治家は多いのが実情ですが。)

ご周知のとおりアベノミクスは三本の矢で成っています。私見になりますが、それぞれの政策効果は以下のように総括できそうです。


政策 ざっくり言うと 効果 主担当
第一の矢
=金融政策
お金を回しやすい環境を作ること
(2%インフレ目標)
アメ 短期政策
重要度=△
(限られた人を潤わす)
主に
日銀
第二の矢
=財政政策
実際にお金をじゃぶじゃぶ回すこと
(実際には借金をさらに増やすこと)
アメ 短期政策
重要度=△
(限られた人を潤わす)
主に
日銀

第三の矢
=成長戦略


古いアカを落として成長産業を育てること
(規制緩和、ダイバーシティ、少子化問題、TPPなど)


ムチ 長期政策
重要度=○
(既得権者や役所に厳しい)


主に
役所


第一・第二の矢はワンセット。これはアメに過ぎなかった

第一の矢と第二の矢は、いずれもアメの政策であり、短期政策です。経済にとってお祭りのような気分を出すことはとても大事なので、確かに重要かもしれませんが、2つまとめて1つにしてもいいぐらいの重みではないでしょうか。2つに分けて大きく見せたかったという心理的工作があったのかもしれません。

それから蓋を開けたら第一の矢も第二の矢も日銀に責任を押しつけていた、という点もポイントです。日銀の黒田総裁がものすごくクローズアップされましたが、ずっと違和感を感じていました。企業でいえば、KGI(売上など、最終業績指標)とKPI(商談件数など、中間業績指標)といった業績指標があるのですが、日銀は追いかけられるのはKPIレベル(2%のインフレ目標などがそう)です。残念なことに、国の経営は中間管理職の仕事ぶりにあまりにも高い期待をかけすぎていました。

肝心のKGIはどうかというと、これは速報値でGDPがマイナス1.6%成長と報道されたように、売上が減少しました。KGIに責任を持たない中間管理職にKPIを頑張らせすぎた結果がこれです。黒田総裁は自分では頑張ったと思っているかもしれません。しかし頑張れば結果に結びつくとは限りません。これがKPI管理のワナです。しかしこれは政策の位置づけを誤った安倍さんの責任です。そもそも重要度=△なのですから。


第三の矢はムチの長期政策。着手を遅らせてはならなかった

第三の矢の成長戦略は、第二・第三の矢とちがってムチです。誰に対するムチかというと、既得権者や役所です。これこそが痛みを伴う重要な政策で大きな期待を持っていました。しかし残念ながら遅きに失したという他ありません。最近女性閣僚がやっと入ったかと思うとすぐ辞めちゃいましたし。規制緩和を進めようとすれば、既得権者が敵になります。規制をとりまとめている役所も進めたがりません。すんなり進むとすればきっと焼け太りしていることが多いのです。

ですから第三の矢は、しがらみの無い人が仕切らないと難しいと思いました。二世できっと親父さんの頃からのしがらみの多い安倍首相には、本当に難しかったと思います。

ですが、この第三の矢は、次の政権でも継続してもらいたいものです。後出しにするんじゃなくて、もっと前面に出して、です。企業経営でも、長期政策は順番を遅らせていいという意味ではありません。長期政策は「効果が長期的にしか現れない」という意味であって、実行順序を意味するわけではなりません。ですから短期政策=すぐ実行、長期政策=すぐ着手、と区別していたりします。

それから「成長戦略」なんて呼ぶのはカッコ付けすぎていました。言葉遣いも間違っています。政策の中身を見ればアカ落としと産業育成ですから、明らかにフェイズの違う言葉をはり付けています。市場ライフサイクルに基づいていえば、成長フェイズは導入フェイズの後に来ることになっています。導入フェイズでは、売上もすぐに上がりません。むしろ持ち出しが多くなりますし、既存事業をやっている人は売上が減って嫌がります。短期的には犠牲を伴うものです。ですから、成長戦略という言葉は誤解を招きます。


短期政策と長期政策のバランスが大事

企業経営の視点では、短期政策と長期政策のバランスが欠かせません。短期政策だけでもダメですし、長期政策だけでもダメです。今回の安倍政権は短期政策ばかりが目立ちました。

刈り取りと種まきという言葉に置き換えたら分かりやすいかもしれません。安倍政権は刈り取りしかできなかったのです。

短期政策は刈り取りです。しかし金融業界や建設業界など、一部の産業に収穫が集まってしまいました。富裕層と貧困層の格差の問題にもなっています。

長期政策は種まきです。未来への投資スタンスをはっきりさせて、短期的な犠牲を覚悟を持たないといけません。

短期政策と長期政策のバランスが重要なことは、企業経営者なら肌感覚で分かることです。第三の矢を後回しにして繰り出していたところからも安倍首相にその感覚が無いことは当初から問題に感じていました。

次の政権では、政策のセットを短期政策と長期政策の分類で組み立ててはどうかと思います。「三本の矢」は面白いキャッチでしたが、本質のバランスを見失っていたので、三本目がまやかしになってしまいました。率直に表明するとすれば、短期・長期の組み立てにしかならないように思うのです。

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