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自然体で常識を壊してしまうイノベータの心とは ~『DIGITAL DISRUPTION』を読んで

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灘高校のTehuさんが中学生のときに「健康計算機」というiPhoneアプリを作って有名になりましたが、そのときそんなに簡単にアプリができるものかと思ったりしたものでした。

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「健康計算板(iPad用)」 iTunesのプレビュー画面から


見くびった考えがあるとすれば失礼ですが、今の時代にはそれだけ簡単に商品を出すことができる環境があるということと、あるいは逆に企画者に求められる資質なども変化してきているのではないかという気がしました。

多くの企業では、よく考えて行動することが重視され、軽はずみに行動に移すことがたしなめられてしまいます。言い訳になりますが、結果として「仮に思いついていたとしても、行動に移せなかった」ことがよくあります。とくに大企業ではそういう傾向が強いと思います。

Tehuさんの健康計算機に対しても、「BMIや理想体重などたかが手計算で出来ることをわざわざアプリにするまでも、、、」なんて感じるところがあるとしたら、まさにそれがそうでしょう。

私自身も、企業では「よく考えて行動する」ことが大事なのだと常識のように考え、そうした常識を前提に人を見てきたと振り返っていますが、他方ではそれに違和感を持ち始めてもいます。



創造的破壊ではなく創造的<崩壊>

こうした違和感は、イノベーションについて非常に身構えた感じのする議論をしているときにも感じます。例えばシュンペンターが唱えた「創造的破壊」を引用した話になるときがそうです。

身構えた感じがするというのは、常識を破壊しないと創造の芽が生まれないという発想や、わざわざ抵抗勢力にハードパンチを食らわせたいといった感じの意見です。

こうした意見は正論な感じもするのですが、わざわざ敵対関係を作り出すという大仕掛けな発想は、作法を考え過ぎていて今風じゃない感じがするのです。

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ですから常識を壊すなら、もっとさらりと自然体で破壊できないものでしょうか。。。

フォレスター・リサーチという調査会社のジェイムズ・マキヴェイ氏が、自著の『Digital Disruption』の中で「崩壊」という概念を持ちだしています。

文字通り、Disruptionとは崩壊を意味します。デジタルの時代になって私たちが常識や作法にしてきたやり方が、いとも簡単に崩壊していく様子をいっているわけです。

つまり破壊ではなく崩壊。破壊は他動詞的で、壊す人と壊れる人が別々になってしまいます。崩壊のほうがニュアンス的にしっくりくるのは、自らの常識通念が自然に崩れていくという点でです。

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消費者と生産者をいったり来たりできる心とは

Tehuさんのような新しいイノベータが、敵に身構えるようにしてではなく、自らが主体になって常識をいとも簡単に崩していってしまう点で、私たちの消費活動や生産活動を突き動かしている欲求のとらえ方も改変を迫られているのかもしれません。

これまでの欲求モデルといえば、「マズローの欲求5段階説」が有名です。

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マズローの欲求5段階説では、私たちの欲求が底辺から上昇する方向に、連続的に進化していくと紹介されています。

聞けばもっともな感じがするのですが、「ある欲求の段階を卒業したら、次の欲求が芽生えてくる」といったゆっくりした進化イメージは、どこか今の時代に合わない印象がします。

というのも、私たちは本当は、あるときは消費者として快楽にふけったり、また別のあるときは生産者として個性豊かにふるまったりしているので、欲求の姿も進化しているというよりは振動している姿で捉えたほうがしっくりくるからです。

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ジェイムズ・マキヴェイ氏は、この図のようにマズロー説に代わる欲求モデルを唱えています。

大雑把な説明になりますが、私たちは脅威にさらされているときは、快適さやつながりを求めます。これはマズロー説の下位の欲求に相当します。

他方、私たちは機会を感じると心が寛容になって多様性を許容し、それが意識や行動に結びついていくと独自の行き方として目に見えるようになっていくものです。これはマズローの高位の欲求に相当します。

───このように私たちの欲求は状況によって振動していると考えるほうが、経験と照らし合わせてもしっくりくるのではないでしょうか。

翻って、常識が自然にDisruption(=崩壊)する今の時代においては、心がいとも簡単に消費者と生産者の間をいったりきたりできることは、イノベーターの資質に適っているような気がしています。

以上は以下の書籍を参考に書かせていただきました。

Digital_disruption

DIGITAL DISRUPTION
ジェイムズ・マキヴェイ(著)
プレシ南日子(翻訳)
実業之日本社(刊行)

ここでは書評というよりは、本書に基づいて私個人の意見を発展させていただきました。

とくに「Disruption」というキーワードの解釈やジェイムズ・マキヴェイ氏の欲求モデルの解釈は、私個人の意見として参考にしていただければ幸いです。

なかでも、「Part2 デジタル・ディスラプターの思考法」は、イノベータの資質が私たちの消費行動や欲求に結びつけられて解説されています。読んだ最初は、どうしてそれがイノベーション論に関わるのか整理できませんでしたが、なぜか興味がそそられ、再度読み返したときに自分なりに整理がついたといったところです。


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