市場が淘汰フェーズに向かうことを認識し戦略発想を大胆に転換したい──2012年の助言方針・抱負として
明けましておめでとうございます。
平素より格別のお引き立てに預かり、厚く御礼申し上げます。
昨年は3.11の震災にお客様の多くが影響を受け、予定していたプロジェクトが延期されるなど弊社の仕事にも少なからず影響がありました。
この事件は、幸か不幸か、私自身の個人としての生活者感覚を呼び覚まし、社会や経済についてあるべき姿についてたくさん考える時間を与えてくれました。
一番の大きな気付きは「続ける」ことの美徳からようやく解き放たれ、「変わる」ことへの動機を強く揺り動かせたということです。
これは私が独りで得た気付きというよりも、震災以来、様々な場でご縁をいただいた方々の建設的な言葉に助けられて得た気付きに他なりません。
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自分自身の立ち位置を変えてみると、それまで気付かなかった環境変化や、傍観者としてしか見ていなかった環境変化が、事業機会に映るようになるものです。またそれまでの成長シナリオが自分に都合良く描かれていたことにも気付くものです。
この環境変化について大きく3点挙げておきます。
● 一つ目は経済が成長フェーズから淘汰フェーズに移行しつつあることです。今の時代の成長戦略は、自他のビジネスを淘汰することを引き替えにして果たされます。これまでのような、総需要の拡大に押されて膨張するように全体が成長するシナリオはありえません。今はまさに、ビジネスが次の時代に適応するための新旧交代期に来ています。
● 二つ目は、分業プロセスから統合ブロセスへの移行です。これまでは、生産・流通・消費を分断し、競争関係や補完関係を構成することで産業の近代化を続けてきました。しかしITやソーシャルメディアが普及するにつれ、これまでの効率性を犠牲にすることなく、お互いのシェアやコラボレーションを実現することができるようになってきています。
● 三つ目は、商品(財)そのものが持つ価値よりも、体験から生まれる価値により重きを置くようになってきたことです。これにより、私たちは価値をお金に換算して得るのではなく、お互いに時間を共有することでお金を使わず問題解決する(価値を得る)場面が増えていきます。つまり換金手続きの必要のない体験価値が活発に交換されるようになるということです。
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こうした環境変化を踏まえると、これまでの戦略発想も大きな転換を余儀なくされることが見えてます。
市場ありきの発想で、購買力を持った顧客をターゲティングする戦略を続ければ、顧客を刈り取ることしかできない体質になり、ビジネスを早晩に先の無いものにしてしまうでしょう。
──私が昨年関わったお客様におかれましても、事業構造改革の局面や新事業開発の局面において、これまでの戦略発想からの脱却が、重大な課題となっています。
課題認識は以下2つ挙げたようにはっきりしています。これらをいかに実践できるか、急変化するこの時代にいかに果断に実行できるかがポイントになっています。
● マーケティング戦略は、保証された市場が無いという前提に立ち、顧客を探すことより利用者を増やすことが先決となります。
性急にターゲットを決めてアプローチしても何ら効果を上げられません。投資回収を急がず、まずスケールを獲っていくこと、利用者をベースとした市場を自ら創っていくことが大事な一歩となります。
● ビジネスモデルもまた、今までの課金方法を見直すことに加え、スケールを大きくする(利用者を増やす)新しいモデルを適用してみることが必要です。
これにはフリー(※)やソーシャルメディアを使った様々なモデルが考えられるでしょう。 ただしスケールを優先すれば、リターンの読めないリスクが大きく先行することになります。よって事業計画は今までよりも長期の視点で立てなくてはなりません。
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弊社もまた震災を契機に、フェイスブックやツイッターを使ったオープンな勉強会を開始し、昨年は10回開きました。
この勉強会のこれまでと違うところは、「教える」のではなく「学び合う」ところです。お互いの関係を水平的にすることで、教える人材のスケール制約を免れるためです。
学び合いの良いところは、事業機会に自ら気付くことができることです。
関係が水平的なためお互いに当事者意識が高まり、事業化や協業に積極的になれるというメリットもあります。
弊社としてはこの勉強会を、すべての参加者が市場創造の機会を得られる、新しいビジネスモデルとして位置づけ、長期的観点から弊社ビジネスの進化を図っていく所存でございます。
本年も引き続きどうか、温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
以上
注記※ 「フリー」については
クリス・アンダーソン著『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』を参考。